わたしだけのヒーロー


千代は、わたしを笑わなかった。いや、笑ってたけど馬鹿にはしなかった。ちゃんと手を差し伸べて「大丈夫?」って声を掛けてくれた。
ただそれだけ。


「篠岡信仰委員会会長」

それはわたしにつけられた肩書き。ちなみにつけたのは阿部。
わたしが千代を慕ってるのは有名な話だ。


「卒業式に壇上でど派手に転けて、笑わないやつがあるか」


阿部がいう。阿部の癖にむかつく。かくいう阿部は爆笑していた。うざい。

何の巡り合わせか、わたしと千代と阿部は同じ西浦高校へ進学した。
そして何の因果か、阿部は野球部へ、千代はマネジへ、わたしは千代の勇姿を見届けるために応援団に参加。そのせいで阿部とつるむことが多くなっていた。


「でもなによ、篠岡信仰委員会会長って」

「そんままじゃん。お前、あんな貼り紙までして変な宗教かと思ったぞ、俺」


貼り紙。

それは野球部の使用している用具庫の扉にはられたものだ。わたしの達筆で「千代に危害を加てみろ、東京湾に沈める」とある(ちなみに書道の授業中に書いたもの)。


「お前の篠岡への執着は尋常じゃねーよ」

「純粋な愛よ」

「いや、頭おかしいだろ。本当に大丈夫か?」

「わたしはただ、千代が幸せならそれでいいのよ」


阿部は納得できない顔でふぅん、と息を吐いた。


「ごめん、待った?」

「全然!じゃあ帰ろうか、千代」


千代と連れ立って歩き出したわたしに、阿部はこっそり耳打ちした。


「篠岡に彼氏できたらどうすんの?」


わたしは躊躇いなく阿部に言い返して、千代の手をとって歩きだす。
千代は今日も楽しそうにわたしに色々話してくれる。それが一時のことであっても、わたしは今、彼女が幸せならばいい。


「千代が幸せならわたしはいつだって、いいの」





わたしだけのヒーロー


080327
3/25 happybirthday chiyo shno-ka !



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