放課後ロマンス


「ナーイスピッチー!」


日が落ちた後のグラウンドは、昼間の騒々しさが嘘みたいにがらんとしていて、一人、ピッチング練習を続ける榛名がますます孤独に見えた。
間の抜けたあたしの声にちらりと視線を寄越したと思ったら、次の瞬間にはまた振りかぶって、投げて、投げて。

あたしになんか興味ない、見たいな顔をして榛名は練習を続ける。
・・・実際あたしは何にも関係ないんだけど。マネージャーでも彼女でもないし。それでも、なんか悔しい。人が部活帰りに疲れた体引きずって、一人で自主練しているだろう幼馴染の様子を身に来てやってるのにサ。いつもの得意なポーカーフェイスの榛名は返事を返そうともしない。

どーせ、声掛けたのが宮下先輩だったら振り向いたんでしょ?


「榛名」


短く名前を呼んだら、今度は小さな声で返事があった。
ピッチングは崩れない。手を止める気は無いようだ。まあそれでもいいや、とあたしは構わず会話を続ける。


「榛名」

「なんだよ」

「もう、外暗いよ」

「知ってる」


なんて可愛げのない会話!(ついでに色気もない)
あたしはなんだが意地になって、榛名のカンペキなピッチングを崩してやりたくなった。


「はるなー、今日誕生日だよね」

「知ってる」

「もてもてな榛名クンはいっぱいプレゼント貰ったんだろうねー」

「うっせえ」

「宮下先輩から貰えた?」

その名前を出したら、わずかにタイミングがずれた(ように見えた)。それでも大きく崩れることはない。おしい!
と、榛名が突然あたしの名前を呼んだ。


「宮下先輩かんけーねーだろ!」

「だって榛名、先輩のこと好きじゃん」

「っ、好きじゃねー!」

「知ってるもん、香具山先輩が言ってたもん」

「(…あいつただじゃおかねー)」


榛名は不機嫌そうに、舌打ちした。
やっぱり好きなんじゃない、宮下先輩のこと。そりゃあ宮下先輩は可愛いし、やさしいし、スタイルもいいけどさ。どうせ叶わない恋なら諦めればいいのに。


「榛名のばか」

「はあ?!」

「好き」


やばい、地雷落とした。
そう思った時には遅かった。ああ、なんてことを口走ってるんだ、あたしは。そのまま榛名の返事はなくて、あたしは動くことができない。なんか凄く惨め。
そろそろ目が霞んで見えないや、と思ったころに、テンポ良く聞こえていたボールの音が聞こえなくなっていたのに気づいた。


「なに泣いてんだよ」


フェンス越し、すぐ前に榛名がいた。


「泣いてないもん」

「泣いてんじゃん」


榛名はばか、と吐き捨てるように言って、フェンスをつかんでいたあたしの指に、自分の指を絡ませてきた。


「お前が俺のこと好きだって、とっくにばれてんだよ、ばか」


見上げた榛名の顔は、暗くてもわかるくらいに赤くなっていた。ああ、これはもしかして、見込みありなんじゃないかしら。

そのときのあたしに理解できたのは、絡まれた指先が、凄く熱く、熱を持っていたってことだけ。



放課後ロマンス



5/24 Motoki Haruna
Happybirthday !
080530



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