記憶 誰も通らない町外れの道は、通り抜ける風すらも静かだった。 彼が指定した場所は相変わらず、男女が待ち合わせをするのには些か色気のなさ過ぎる町外れの丘の上。それは、おまけが沢山いるから仕方のないことなのだけど。 「ハオさま、帰ってきた」 あどけない子供の声が空から降ってきた。声を追うように空を見上げると、炎が燃え広がるように、その赤い巨体が姿を表す。 スピリット・オブ・ファイア。 それは最凶の、彼の持霊だ。 「少し遅かったね。目的は果たせた?」 「ええ、彼は元気でしたよ」 わたしの答えに、満足そうに彼は笑った。 一瞬、少し大きなつむじ風がわたしを巻き込んで、目を開けるとそこは既に、彼の腕の中だった。 「葉王さま、」 「うん、おかえり」 にこりと笑う彼は、齢、僅か十三の少年だ。しかしそれはあくまで身体の年齢であり、彼自体は飽きるほど転生を繰り返して現在に至っている。 幼いわたしを彼が連れ出したそのときから、彼とわたしは行動を共にしていた。共にする、といっても、日々増える中間達も一緒なのだが。 「久々の会合、彼は驚いていたかい?」 「全然。葉は、随分と肝が据わっていたわ」 「それは頼もしい」 クスリと笑う彼の横顔は、年に似合わず大人びている。昔は同じくらいだった身長も、いつしか追い抜かされていた。 「葉王さま、それがオラクルベル?」 「そうだよ。君が用事を済ませている間に貰ってきたんだ。随分あっさりとした勝負だったけれど」 掲げて見せたその機械には、蒼い勾玉の根付けが付けられていた。それを目に捉えると、ハオは「君がつけろっていったんじゃないか」と言う。 「まあいいけどね。こんなに霊力が圧縮された、すばらしい勾玉を僕は他に見たことがないから。それにしても、どうして僕が蒼で葉が紅なんだい?」 普通逆だろう。 ハオは首をかしげた。 「いいえ、それでいいのよ。対で意味を成すものだもの。逆でこそ力が対を成し、意味があるの。双子だから、とても相性がいいわ」 「さすが、僕が見込んだだけある」 ハオは少し嬉しそうに微笑む。 「本当に葉に届けに行くなんて、驚いたけれど」 空を浮遊しながら、下界を見下ろした。家々が点のようにしか見えない。 「もうすぐ、はじまるよ」 戦いが。 五百年、待ち焦がれた戦いが。 「葉王さま、お誕生日おめでとう」 呟いたわたしを、ハオは更に強い力で抱き寄せた。 「ありがとう、僕の愛しい人」 記憶 ハオの瞳は執念に燃える。わたしはそっと目を閉じて「わたしは貴方の隣にいていいのかしら」と問うた。しばらくしてハオも、小さな声でささやいた。 遠い昔から、僕の隣はお前の席だよ、と。 080530 (←懐古) 5/12 Hao Asakura Happybirthdai.. |