懐古


久しぶりに現れた彼女は、遠い昔に一度会ったきりだったので、それはそれは驚いた。

オイラは凄い驚いたんだけど、彼女はオイラの顔を見て「変わらないね、全然びっくりしてないじゃない」とそれこそ変わらない笑顔で微笑んだ。




懐古




「じいちゃん達がお前が行方不明になったって、しばらく探し回ってたんだぞ」


アンナが生憎留守な為、大したもてなしはできないと謝ったが、彼女は「すぐに出なきゃいけないから構わないで」と言った。
とりあえず茶を出してみたが、これがなかなかまん太のように上手くいかない(そういえばまん太も今日は来ていない)。


「そう、それは悪いことをしたわ。本当なら挨拶に行きたいのだけれど、すぐに行かなきゃならないところがあるのよ」


少女は昔、アンナと同じように恐山で発見された。
それからしばらく麻倉の家にいて(オイラも一度会ったけれど)ある日突然姿を消した。
じいちゃん達は「神隠しだ」と騒いでいたが、オイラはなんとなくもう麻倉の家には戻らないんだろうな、と感じていた。


「そいで、お前はどこ行ってたんよ」


彼女は曖昧に笑って、「とても大切なひとのところ」と答えた。
問い詰めたりしない。そんなことしたら、彼女は多分、消えてしまうから。そんな切なさを兼ね備えた彼女は、思い出したように懐から小さな包みを出した。


「今日突然訪ねたのはね、これを渡したかったからなの」


少女の差し出した包みは、手のひらに包める程度の小さなものだ。
それを受け取り、包みを開くと、中から根付けにした勾玉のキーホルダーが出てきた。


「葉くん、今日誕生日でしょう」

「よく覚えてたなあ、一度あったきりなのに」

「一度会ったきり、だからよ」


ふわりとした笑みを浮かべた少女は、「もういかないと」と立ち上がる。オイラも見送るために立ち上がり「もう少しゆっくりしていけばいいのに」と呟いた。


「本当はもうすこし居たいのだけど、今日少しでも話せてよかったわ」

「ああ、オイラもだ。元気そうで安心した」

「わたしが元気だってこと、恐山のおばあさまやおじいさまに伝えといてくれないかしら」

「ん、わかった」

「あと、アンナにも…」


アンナ、と呟いて目を伏せた。
少女とアンナは姉妹のようなものだったから、思うところがあるのだろう。

じゃあね、と歩き出した彼女の背にひとこと、投げかけた。



「また、会えるかな」


「ええ、近いうちに」



それから少しして、オイラはアメリカへ行くことになったが、彼女の行方はあれ以来耳にしていない。
ただ、アンナに彼女のことを話したら「そう、」と意味ありげに呟いた。やはり姉妹で思うところがあるのかもしれなかった。


シルバに貰ったオラクルベルの横で、紅い勾玉が揺れた。



080530
(→記憶)

5/12 You Asakura
Happybirthday...



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