とりとめのない話



授業中、あまりに退屈だったのでなんとなく隣に目をやった。女と目があった。そのまま数秒間、無表情でお互いの顔を眺めていたが、やがて女は眉をしかめた。


「何」


何って、別に。
なんとなく見たら目があっただけでさァ、悪いかこのアマ。

彼女は酷く気が強いが、酷く好き嫌いをするタイプだったので、俺はとりあえず睨みつけておく。例に漏れず、俺も嫌われている。


「沖田ってさぁ」


人への好き嫌いが激しい(とりわけ男子が嫌いらしい)女が進んで話掛けてくるなんて思わなかったから、少しだけ驚いた。いつもみたいに眉をしかめて目を逸らすかと思ったのに。


「沖田って、シスコン?」

「は?」

「そーちゃん」


……は?
何?なんでお前それ知ってんの?それ、土方でさえ知らないことなんだけど。ありえない。


「…なに言って、」

「こないだ歩いてるのみた。綺麗なお姉さんと」

「…」

「あの天下の悪ガキ沖田くんがまさか、と思ったけどね。人違いじゃなかったか」


女は、勝ち誇ったように微笑んだ。こいつが笑うの初めてみた。初めてみた笑顔が自分が馬鹿にされる笑顔とか、最悪でさァ。


「…金か」

「は?」


女は再び教科書に戻した顔を俺に向ける。俺は低い声で、言った。


「金じゃないんですかィ」

「ちょっと、何の話?」

「そんな話持ちかけて、俺を脅そうって算段じゃねーのかィ」


至極真面目な俺に、女は吹き出す。なんて失礼な奴だ。


「そんなことするわけないじゃん。ただ、意外だっただけ」

「意外?」

「沖田ってちょっと近づき難い感じするからさ」


それはこっちの台詞でさァ。あんたの方が近づき難いと思っていたのに、こんな奴だとは意外だ。
女は微かに笑って、言った。


「ねぇ、そーちゃんって呼んでいい?」

「絶対やだ」


こういう、はっきりした女は嫌いじゃない。




とりとめのない話


総悟birthday
080710



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