あまいあまい、


出会った頃から、そのヒットマンがただ者ではないことなんてわかっていた筈なのに、あれから幾年か経ち、成長していくばかりの彼に些かわたしは閉口している。
赤ん坊だった彼も今ではすっかり小学生。日に日に大人に近づいてゆく彼を微笑ましく思う反面、醸し出す雰囲気は大人そのものであるために、変な気を起こしてしまいそうになる。

だめだめ!相手は小学生、しっかりしなさいわたし!


「そんな弱っちい自我、頼りにすんな」


自己暗示をしているそばから、件の赤ん坊…じゃなくて小学生ヒットマンのリボーンは、わたしにちょっかいを出しに来たようだ。
ちっちゃいくせに、一人前にスーツなんか着てやがる。どうせまた一流ブランドの特注品なんだろう。正直彼にはランドセルの方がお似合いだ。


「なに苛ついてんだ、顔が不細工だぞ」


女の子捕まえて「不細工」とは失礼なやつだ。
でもわたしは彼とは違って分別をわきまえた大人、これくらいで怒ったりはしない。


「あら、リボーンおはよう。小学生は学校に行っている時間よ」

「なんだ、お前馬鹿だと思ったら小学校も卒業してねーのか」

(小学校に行くのはてめぇだちくしょー!)


叫びだしそうになった言葉を無理やり飲み込む。がんばれ、耐えろわたし…!


「ふん、妙に引きつった笑顔浮かべやがって」


リボーンはわたしの顔を見上げたまま、ニヒルに笑った。
全てを見透かした上で馬鹿にしたかのような表情に、何故かこちらが子供扱いされたような気になる。


「な、なによ、大人を馬鹿にしないの!」

「オレからしたら全然子供だ」

「は、リボーンは小学、」


思わずむきになったわたしの胸元を掴んで、ぐっと引き寄せたリボーン。とても小学生とは思えない、凄い力。ヒットマンとしては当たり前なのかもしれないけど。


「これ位でむきになるなんて、まだまだガキだな」


まん丸の、済んだ大きな瞳に見つめられた。蛇に睨まれた蛙のように動けなくなった。
悪戯ににやり、と浮かべられた笑顔。それは全然子供っぽくなんかない。



ちゅ



「!!?」

「馬鹿、頬だぜ」


リボーンはやっぱり馬鹿にしたような表情のまま、わたしを置いて去っていった。

(ど、どうしよう…!?)

わたしの頭の中で警鐘が鳴り響き、頬に熱が集まる。

頬に落とされた小さなキスは、わたしを混乱に落とし入れるにはには十分過ぎるものだった。




あまいあまい、



(10/13 リボーン生誕)
081106



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