hero


田島悠一郎は、私の小学校からの同級生で、でも幼なじみかと聞かれたら多分違うと答えるだろう。何故なら私は田島くんと仲良く公園を走り回る、または遊びに誘い誘われるような関係ではなかった。
が、関わりのないただのクラスメートだったのかというとそうでもない。
田島くんと私の関係は妙だ。田島くんは、私が困ったときや大変なときに限って、私の前に現れるのだった。


例えば、給食に出たチーズがどうしても食べれなかったとき。ハンカチを忘れたとき。上級生に絡まれたとき。先生に、怒られたとき。
一つ一つ上げていけばきりがない。そして田島くんは颯爽と現れて私を助けて、そして去っていく。
時には上級生などと喧嘩になって怪我を負い、それは私のせいなのに、田島くんは恨み言ひとつ言わずににこにこと笑って帰るのだ。

私には未だに田島くんの真意がわからず、そしてその関係は高校生になった今も続いていた。


「おい、今日数学の教科書忘れただろ」


朝、授業が始まる前に田島くんがやってきた。9組の田島くんがわざわざ7組の私のところに来るなんて面倒だろうに、田島くんはいつも私のところへ来る。私が吃驚して「何でわかったの?」と聞くと、田島くんは素っ気なく答えた。


「なんか…わかったから」


意味深な答えを残して田島くんは、さっさと自分のクラスへと帰ってしまった。確かに数学の教科書を忘れてきたのは事実で、仕方なく隣の席の人に見せて貰おうと思っていたのだ。

(なんで田島くんは私に構うのだろう)

昔から、何度も考えてそれでも尋ねられなかった疑問。田島くんの教科書を見つめながら悩んでいると、隣の席の花井くんが私の肩を叩いた。


「どーしたの」

「え、いや、あの」

「さっき、その教科書渡しに来たの、田島だよな。あんた田島と仲いいんだ」

「…さぁ、どうなんだろう」


曖昧な言葉に、花井くんが何か感じ取ったのか、首を傾げて私を見た。花井くんは田島と同じ野球部。田島くんのことが気になるのだろう。

「幼なじみ…ではないんだけど、何かと助けてくれるっていうか」

「田島が?」

「うーん…」


上手く説明出来ずにふと外を見ると、グラウンドに9組の男子が出てくるのが見えた。田島くんがいる。気まぐれに、田島くんを眺めていると、偶然目が合った。

どうしようかと視線をさまよわせる私に、田島くんはにかっと笑ってこちらに手を振る。私も恐る恐る振り返すと、隣にいた花井くんが窓から顔を出した。


「あ」


途端に不機嫌そうな顔をした田島くんは、むっと花井くんを睨みつける。


「おい、花井!」


花井くんは相変わらず疑問符を浮かべたまま、田島くんの言葉に「なんだよ」と返した。


「名前、泣かしたら許さねえからな!」


なんで、私?

良く意味がわからずにじっと田島くんを見つめると、田島くんは何故か顔を赤くして走っていってしまった。


「あぁ、そーゆーこと」


納得した様子の花井くんに「なにが?」と問い詰めると、花井くんは困ったような顔をした。


「田島は、苗字を守りたいんじゃない?」


それきり答えてくれなくなった花井くんの、さっきの言葉がぐるぐると頭の中を回る。

田島くんが、私を守りたい?なぜ?私は田島くんの、なに?

結局、いくら考えてもそれが何を意味しているのかはわからなかった。わからないけど、ひとつだけはっきりとしたことがある。


少なくとも田島くんは、私にとっての田島くんは、ヒーローなのだ。



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(10/16 田島悠一郎生誕)
081114



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