my prince


王子様、

なんて甘ったるい名称も、彼にかかればすぐに殺戮の赤と黒に塗り替えられてしまう。
しかし王子様という名前に、彼がそぐわないというわけではない。寧ろ似合いすぎだ。血に飢えた殺戮王子だけれども。


「うしし、お前ってホント面白い奴」


はじめて出会ったのは、あるマフィアのパーティーで。彼は客じゃなかった。そして私も客じゃなかった。しかし、かの王子様は綺麗な金髪にティアラを差して、それはもう、黒いコート姿なのに他のどの客よりも目立っていた。最も、彼が注目された時には既にその髪も赤く濡れていたが。


「お前さぁ、俺の同業者?」

「…ヴァリアーね」

「うしし、いい目してんじゃん。でも怪我してんだ」

「私を、殺すか」

「殺したい。…でも、今のお前やってもつまんねー」


鮮やかな血色の舞台で向き合った私たちは、互いに暗殺者。たとえ目的が同じであれ、敵マフィアの同業者に出会ったら逃がさないのが掟。
しかしその王子様はくるりと背を向けて退屈そうに欠伸をした。


「退屈。任務終わったし、帰ってマーモンと茶でも飲もー」


くるりと背を向けて去っていく、黒いコートに金髪、そしてティアラの血塗れ王子様。私は見逃されたのだ。私も追いかけずにただ見守った。あのヴァリアーのベルフェゴールに勝てるわけがない。


王子様に見逃さるなんて、運が良かったものだとほっと息を吐く。もう関わることはないだろう、そう思っていたのに。

私は何故かかの王子の下で働くことになっていた。


「うしし、仕事なれた?」

「…まぁ」


ボンゴレは本来、私が雇われていたマフィアの敵の筈。それが、ある日ボスに告げられたのは「ボンゴレに入れ」。最初は潜入任務かとあっさり受け入れたのだが、それはどうやら両ファミリー間で執り行われた正式な取引であったらしい。
つまり、私は取引道具としてボンゴレに売られたってこと。(しかし雇われていただけでそのファミリーに特別な愛着はなかった。だからまぁいいんだけれど。ひとつ腑に落ちないのは、なぜ王子の下に配属されたかである)


「正直、本当にお前が来るとは期待してなかったんだけどさー」


不意に、王子はナイフをいじくる手を止めて私にににたりと笑いかけた。


「頼んでみるもんだよな」


うしし、という相変わらず変な笑い方。
それよりも王子の発言に私は気を取られていた。「本当にお前が来るとは期待してなかった」「頼んでみるものだ」………?
それはまるで、彼が私がボンゴレへ来るように仕向けたかのような、まるで、でもまさか。


「あの…それってどういう」


勇気を出して声を絞り出すと、王子は「知らねーの?」と馬鹿にしたような目で私を見下した。


「だからぁ、お前は王子に買われたんだって」

「は?」

「本当頭わりー。うちのボスに誕生日プレゼントほしーって言ったら買ってくれたんだよ」


――誕生日プレゼント?誰の?

――勿論、王子の。


って、ことは何だ。私は奴の誕生日プレゼントとしてボンゴレに売られたのか。最悪だ。しかしなんで私。


「勘違いすんなよ。王子は、お前を壊したい」

「どういう…」

「でもお前さ、まだ弱えじゃん。もっと鍛えて、飽きたら殺すから」


それまでのお預け。

そう言って彼は私に顔を近づけた。さらさらの金髪が私の額に触れそうになる。


「殺すのたのしみ」


王子は笑って、一瞬、掠めるようにして唇と唇を重ねる。


「…っ!?」


いわゆる、接吻。驚きとっさに武器に手を伸ばすものの、既に彼の後ろ姿はちいさくなっていた。

(殺す為に育てる、か)


呆然とした頭で考えた。私が血に飢えた王子様から逃げることはできるのか、と。
答えはノン。無理、絶対に追い詰められる。
彼は危険だと、五感で嫌というほど感じている。出会ったときから、あの威圧感には身体が震える程なのだ。でも、しかし。

「殺したい、壊したい、だから強くなれ」と、純粋で歪んだ愛情(ではないのかもしれない。どっちにしろ多分好意)を向けられた私は、それを酷く魅力的に感じていた。
血塗れた王子様の手を取って、屍の上でのワルツもいいかもしれないと思ってしまったのだ。


「だから、私はあんたに負けないくらい強くならなくちゃね、ベルフェゴール」




my prince



(12/22 ベル生誕)
081227



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