司祭を喝采


彼はチョコレートは好きではないだろうな、と思った。だからと言うわけでもないが、別にバレンタインに渡すのはチョコレートでなくてもいいと思う。

あたしの好きな人は友達のお兄さんだった。同じクラスで、仲も比較的に良かったために、彼女にその想いを打ち明けるのは凄く緊張した。
もしかしたら嫌われてしまうかもしれない。しかし、それはいらぬ心配だったようで、


「お兄ちゃんのマフラー、もう買い換え時なんだ」


と天使のような笑顔で京子はアドバイスしてくれた。あたしは早速マフラーを編み始めた。裁縫は大の苦手だが、彼の為なら努力も厭わない。
不器用ながらも頑張った甲斐があってか、なんとか当日には間に合った。


「どうしよう緊張する、やっぱりやめとこうかな」
「何今更いってるの?大丈夫だよ。あ、ほらお兄ちゃん来たよ」


怖じ気づいたあたしを引っ張るように先輩の前まで引きずった京子は「私の友達なんだ」と先輩に軽く紹介すると、笑いながら教室に戻ってしまった。




「む?どうしたんだ、京子のやつ」
「あああ、あの、笹、笹川先輩!」


先輩はちらりと京子の背中を見やってから、きょとんとした顔のままあたしを見た。
会話するのは初めてだった。憧れの笹川先輩が目の前にいる、それだけで失神しそうだった。


「どうした、顔色が良くないぞ?」
「こ、これ…!」


上手く口が回らない。それでも手に持ったそれを押し付けるように渡すと、あたしはやっとのことで伝えた。



「極限にバレンタインです!」



後日、笹川先輩は歪んだ「極限」の字が編み込まれたマフラーを身につけていた。こんなに嬉しいことはない。



バレンタイン司祭に喝采



080214 了平とバレンタイン^^



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