司祭を罵倒 「知ってましたか?そもそもバレンタインデーは、ローマの聖バレンタイン司祭が殉教死、処刑された日です。世界では恋人たちが贈り物をする日とされてますが、女が意中の男にチョコレートを渡す日だと思い込んでいるなら、それは浅はかな勘違いです。日本の製菓業界の格好の金づるですね」 真っ白な部屋、彼はブロックを積み上げていた。ひたすら上に、上に。 真っ白なパジャマにくるくるとした白銀の髪の彼――ニアは、あたしの問い掛けに馬鹿にしたような答えを出した。 「バレンタインにチョコレートをもらったところで男が皆嬉しいわけではありません」 ニアはこちらなんて見向きもしないでひたすらにブロックを積み上げていた。 「そんなのわかってるよ」 小さな声でつぶやいてみたのだが、ニアはしっかり聞き取っていたようだ。 「いいえ、あなたはわかってません」 「わかってる」 「…馬鹿ですねえ」 馬鹿、と言われていい気がするわけがない。あたしはニアの横に座りこみ、彼の手元を見ていた。三角形のブロックや丸のブロック。全てを微妙なバランスで積み上げていく。それは最早芸術だ。 「馬鹿じゃないもん…」 「馬鹿ですよ」 「なんで?」 「製菓業界の策略に乗ろうとしているでしょう」 ニアはそこまで言うと手を止めて、あたしの目をじっとみた。目が合う。子供のように純粋で誰よりも残酷な現実を見通す目だ。ニアは指に髪を絡ませて、くるくるとしながらため息を漏らした。 「考えがまとまりません」 ニアが迷うくらいなのだからよっぽど大変な事件なのね。あたしがそう言うと、ニアは表情を変えずにつぶやいた。 「あなたの左ポケットに入っているチョコレートを貰う手段がわかりません」 あたしがその意図が汲めずにフリーズしていると、急かすように手が伸ばされた。 「早く渡しなさい。結局あなたも私も製菓業界の思惑通りなんですよ。」 バレンタイン司祭を罵倒 デスノよりニア 080214 |