美麗で醜悪な愛の形


もう厭だと言われた
もう疲れたと言われた
あなたについていけないと、突き放された


「そ、うご…」


名前の髪をひっつかんで、壁に打ちつける。痛さに歪めた顔、うっすらと引かれた口紅、怯えた瞳、しかしそれは俺を煽るだけで彼女の抵抗は無駄である。


「今更、逃げるなんてできると思ってんですかィ」


低い声で呟くと、彼女は俺を睨みつけた。俺の隊服の胸元を掴むと、押し返すような仕草をする。が、非力な彼女が俺の力に叶う筈がない。


「もう、やめたいの。苦しいの、総悟といるのが」

「…はッ。だからなんでさァ。あんたが苦しいからってこっちは知ったこっちゃねェ」

「わたしのこと、本気じゃないんでしょ?もうやめよう」


噛み締めた唇が艶めかしい。いつからこいつはこんなに女らしくなったのだろう。初めて会った時は化粧っ気のまるでない、冴えない女だったのに。


「本気じゃないなんて言ってないでさァ」

「わかるの!だってちっとも優しくしてくれないし、わたしが話し掛けると嫌そうな顔するし…神楽ちゃんといるときの方が楽しそうだよ」


視線を逸らして言った名前に腹が立った。

「あんたこそ、土方といる時に頬なんか染めやがって、殺されたいんですかィ」

「そんなわたしは、」


反論しようとした名前の顔を無理やり掴んで唇で唇を塞いだ。


「やだ、やめて…!」

「やめない」

「なんでよ、わたしはもうあんたなんか」

「きらい、なんだろ?」


彼女の言葉を引き継ぐと、名前はうろたえたように口を噤んだ。


「構わないぜ、あんたが俺をきらいでも。だけど俺ァあんたを放さねェ」

「総悟、」

「何を言っても無駄でさァ、こんなにも惚れてんだからよォ」


もがくのをやめた名前の顎に手を掛ける。名前は何も言わずに視線を逸らした。


「俺もだけど、あんたも相当嘘つきですねェ」


耳元で囁けば赤くなる顔。こんな茶番、こんな三文芝居はもう終わりだ。

「名前、何回繰り返せば気が済むんですかィ?」


名前は泣きはらした目を拭うと、軽く笑って囁いた。


「総悟、好きよ」


その言葉がおしまいのサイン。俺は同時に彼女の唇を奪った。




美麗で醜悪な愛の形



(ほかに、僕らは愛の確かめ方をしらないから)

080826



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