ループ



人間には生まれついた運命があって、何度も何度も生まれ変わり、果てなくひとつの運命をめぐるのだ


彼女は言った。
ボンゴレファミリーの暗殺部隊、ヴァリアーといったらその筋の人間で知らぬ者はないと恐れられる組織。名前はそのヴァリアーに女だてらで採用された、殺しの天才だった。
入ったばかりの頃は俺が世話をみた。その為なのか、俺は彼女に酷く懐かれていた。


「ねぇスペルビ、わたしは何の運命を背負っているのかしら」


真っ白なシーツの上で、名前は言った。その姿に殺しの天才と言われた面影はない。丁度肩に掛かるくらいの黒髪はみだれ、白いシーツに映えた。


「あのひとは、殺されるのもまた運命、と言ったのよ。」


白い顔の上で唇だけが異様に紅かった。どこか艶めかしいその姿に、俺は視線を逸らす。
ある日を境に一線から退いた彼女は、次第に部屋から出てこなくなった。誰とも会おうとしない名前は、何故か俺だけは名指しで呼びつけた。何度も、何度も。

そうしてベッドに横たわったままの病的な彼女は、同じ問いばかりを俺に投げかける。まったく、厄介な好かれ方をしたものだ。


「スペルビ、わたしの運命はこうしてゆるゆると死んでゆくことなのかもしれないわ。そしてまた生まれて、死んでゆくの」

「う゛おおい、死ぬなんて言うんじゃねえ」

「でも、だって、あのひとは死んだじゃない…わたし、生きていけないわ…」


(違う、あのひとは死んだんじゃねぇ。殺したんだろうがぁ)

嗚咽を繰り返す名前には、真実の記憶さえもがあやふやなのだろう。仕事だとはいえ、最愛の恋人を自分の手で殺したのだ。あのときから、名前は狂ってしまった。


「スペルビ、あのひとがね、わたしに愛してると言ってくれたの。家族になってくれるって、」

「名前」

「幸せでしょう?ねえ、スペルビ、わたし幸せでしょう?」

「名前、いい加減目を」


覚ませ。

俺はたった一言も言えない。でも真実を教えてどうする?名前は壊れてしまうだろう、これ以上。そうなってしまったら、

(俺が、耐えられねぇ)


「わたしの運命は、きっとあのひとに出会うこと。何度も巡って巡って、あのひとに会うの」


虚ろな目の名前は、俺の気も知らずに笑う。

愛してるだなんて、俺がいくらでも言う。家族にだってなるし、絶対寂しい思いはさせない。
なのに、名前は、俺に見向きもしないのだ。名前の目は既に死んだ人間に向けられていて…死んだ人間にかなうはずない。


(名前の運命が惹かれ、死んでゆくことならば)
(俺の運命は、決して実らない恋だ)


何度も巡って巡って、そして何度も名前を見失う。


「スペルビ、わたしを見捨てないのはあなただけだわ」


それは逃れることのできない、



ループ



080813 / ワルツ一周年




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