光化学スモッグ


やはり彼女には、炎天下のグラウンドよりも静かな図書室の方が似合うと改めてわかった。
太陽の下に晒された白く細い腕、足。今日は球技大会のために長く細い髪は結われているが、体操服のまるで似合わないことといったら。俺はそんな彼女が心配で、サッカーボールよりも彼女に目がいってしまう。
黒髪の下で白い顔を一層白くさせた彼女は、恨めしげに目を細めて太陽を見上げていた。


「名前、顔色悪いよ?」


彼女が常に従者のように従えている女子の一人がいった。彼女は、苗字名前は体の内側からあふれ出すような高貴なオーラで満ち満ちている。繊細な彼女を支えるがごとく従者がいるのはとても絵になる。当然のことだ。名前は体が弱いのだから。


「…まだ大丈夫」

「本当に?」

「うん、はやくしないと試合始まるよ」


にこりと笑う名前の笑顔はぎらぎらと輝く太陽に劣らず、煌びやかだ。

名前は気づいているだろうか、俺の存在に。嗚呼、彼女を一目見るために何回図書室へ通ったことか!桐青野球部のエースと騒がれる俺だが、きっと彼女はそんな噂なんぞその高貴な耳には入れてくれないのだろう。

でももしかしたら、という期待を捨てられない。彼女は一度、野球部の試合を見に来てくれたのだ。
その時は誰か目当てがいるのではないか、と気が気ではなく投球もままならなかった。もちろん負けなかったけど。彼女はちゃんと見てくれただろうか、俺の雄志を。


「名前!」


女子のきゃあ、という声で我に返った(ちなみに名前はきゃあ、なんてはしたない声はあげない)。


「ごめん、やっぱり貧血…」

「先生、わたし名前を保健室に連れて行きます!」


名前が貧血で倒れかかったのだった。か細い体を腕で支えて、懸命に倒れぬようにする彼女を見て、いてもたってもいられなかった。


「俺が連れてきます!」


挙手して名前に近づいた。とっさの行動だった。彼女は驚いたように目を見開き、俺を見つめている。
気のせいか、貧血で白くなったその頬にほんのり赤みが――――


「準太、それは気のせいだ。ちょっと落ち着け」

「和さん放してください!俺はすぐに彼女を保健室へ、」

「準太しっかりしろ、早く自分の試合戻れ!」

「慎吾さんまで…!」

「…準サン、こないだの試合長引いたのそのせいだったのォ」


「準太、口から考えてることが全部漏れてたぞ。しっかりしろよエース」



名前は、怯えたような目でこちらをみて保健室へ連れていかれた。彼女の記憶に深く刻まれたのは間違いない。


光化学スモッグ


(しょうがないんだ、光化学スモッグ警報が出てたんだから、頭くらいおかしくなるさ!)


080823 / ワルツ一周年



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