跡部の友人 頭上には果てしなく爽やかな青い空が広がっていた。白い雲に程よい風が心地よい。暑過ぎもせず、寒すぎもせず、今日は絶好のテニス日和だ。 だが今、この状況でそんなことは全くもって関係なかった。その時、辛うじてに跡部に理解出来たのは、季節外れの春がやってきたということである。 彼の前に立つ巨漢は、樺地だ。跡部よりも背の高い彼は、純朴なその顔を赤く染めて、大きな身体に似合わないほど…もじもじしていた。 「…おい樺地」 「…………ウス」 (…重症だ。返事がいつもの倍遅い) 跡部は頭を抱えた。 さて、この辺で話を整理しておこうと思う。いくら有能な跡部でも、緊急の事態にはきちんと話を整理することは大切なのだ。 相談に乗っている跡部景吾は、泣く子も見とれる氷帝テニス部部長。何人もの女の子を虜にしたてだれだ。そして今、生まれて初めて恋愛相談を持ちかけている樺地は、跡部より一つ年下の、幼稚舎よりの仲間であり友人である。 「じゃあ、何だ。話を整理するとこういうことか?お前が毎朝見かける女子生徒が気になっていて、しかしどうやら彼女との接点がまるでない。お前は、どうにか少しでも早く、自分の想いを伝えたい…と。」 ウス、ばかりでなかなか理解できない樺地の言葉を、見事なまでに簡潔にまとめた跡部の言葉に、樺地は何度も何度も頷いた。 その樺地の様子を見て、跡部はひっそりと思う。 (今まで、樺地のことは俺が何でも知っていると思っていた。しかし、樺地に好きな女がいるなんて知らなかった。そして想いを伝える気だということも。いつまでも年下だと思っていたが…どうやらこいつも、一人立ちへの一歩を歩みだそうとしているようだ) 「…よし、俺様がなんとかしてやろう」 考えるより先に跡部は言葉にしていた。自然に、心から出た言葉だった。跡部は派手で厳しい部長であり、先輩だが、その心は仲間への配慮で満ちていた。跡部は実は熱い男なのだ。 かくして、樺地告白大作戦が始まったのである…。 「…と、まぁここまではいい。問題は、どのような演出をするかだ」 「エンシュツ…」 跡部は脚を組んで優雅に椅子に腰掛けていた。流石に様になる。この派手な輝きが女子を惹きつけるのだ。 対する樺地は、身体は大きいがどこかぼんやりとした印象を与え、ぱっとしない。しかし跡部は知っていた。樺地は、跡部の持っていない魅力を持っているということを。 「樺地、お前の武器は純朴、かわいさだ」 「…ウス」 そう、樺地は一見無表情だが、それは無垢故のもの。どこまでも純粋な心、そして愛情、ジローや向日とは違うかわいさが彼にはあった。 一度その心に気づけば母性愛を擽られない女性がいるだろうか…いや、いない。 「あとは演出。どんな女でもいい演出があれば、十中八九落ちる。…お前、得意なものはなんだ?勿論テニス以外でな」 跡部の問いに、樺地は少し考えこむような顔をした。そして呟いた。 「家庭科…です」 家庭科!樺地の言葉に跡部は絶句する。 (おい、家庭科があれば完璧じゃねぇか) そういえば、樺地の家庭科における才能は並外れたものだった。料理も裁縫も、氷帝で彼に叶う女子はいない。 「よし、それでいこう。そうだな…夕日に照らされた教室、お前の手作りの菓子…あとは素直かつ明確に、心を打ち明ければ大丈夫だ!」 「ウス…!」 樺地は感激に震えた。 (跡部さんの計画ならば完璧だ…!) しかし跡部提案の告白方法が、どうもベタな少女チックなのは気にしない方向でお願いします。ほら、中学生だしね。 * 時は変わって翌日。放課後。 樺地が手に持つのは、綺麗にラッピングされた箱。 例の作戦実行のために集まったのは樺地と跡部と、忍足だった。 「なんや、おもろいことしてんやなぁ」 しみじみと呟いた忍足は、見学を決め込んでいるようである。 ところで、と跡部は不意に尋ねた。 「その、惚れた女って誰だ?」 樺地は、顔を赤くして俯いた。そして視線を反らしたまま、小さく言う。 「三年の…」 ほう、 跡部と忍足は以外な答えに関心したような声をあげた。 「苗字…名前さん…です」 関心したような声が、絶叫に変わった。 「か、樺地!苗字名前って広報委員長のあの苗字か!?」 「ウス」 「なんやて!?跡部のクラスの…跡部は彼女と前に…」 「忍足言うんじゃねェェ!!」 柄にもなく取り乱すテニス部三年ズ。 説明しよう。広報委員長の苗字名前は跡部の次にこの氷帝で有名な人物である。委員会とは名ばかりの彼女の支配する広報委員会…それは、どんな手を使っても広報活動することで有名であり、跡部とは去年から同じクラスだった。その間、二人の裏では様々な争いがあった…らしい。跡部はその際にかなりのトラウマを植え付けられたと言われている。 「樺地、それは厄介やなぁ。彼女は入学以来、高嶺の花や」 忍足も、彼女に玉砕してついでにプライドを粉砕骨折させられた男を多く知っていた。 「…ウス」 「フッ、どうやら樺地の想いは本物みたいだな。あとは、実践だけだ」 跡部が言ったその瞬間、三人しかいなかった教室の扉が明け放たれた。 そして現れたのは仁王立ちに立つ少女…整った、冷ややかな表情をした彼女こそが氷帝の高嶺の花、樺地の想い人の苗字名前である。 「跡部、わたしを呼び出すなんてどういうつもり?」 凜、とした声が響いた。忍足が息を呑んだ。樺地は緊張で固まる。そして跡部は、樺地の背中を押した。 お前ならできるさ…いけ、樺地! 「苗字…先輩、」 樺地は手に持った箱を差し出し、頭を下げた。 「これ…」 そして、1ヶ月後。 樺地の告白は成功したのか否か。 部活動の終わりのチャイムと共に部室を飛び出した一人の姿。 そしてそれは校舎から出てきた影に寄り添った。 「お疲れ様…です」 「あぁ、ありがとう。…いつ食べても樺地の菓子は旨いな」 受け取った包みをすぐに開けて口に含んだのは、かの有名な広報委員長。そしてそれを差し出したのはあの樺地であった。 「あの二人、案外お似合いやなぁ」 「びっくりしたC〜」 「まさか樺地がな…」 驚く氷帝テニス部メンバーだが、その光景も日課となりつつある。 「俺様のお陰だな」 満足げな跡部の表情は、娘を嫁にだした母、そのものの顔だった。 妙に男らしい彼女と妙に乙女な彼氏、氷帝の名物カップルはこうして誕生した――――。 跡部は本当は凄く樺地を大切な友人だと思ってる(と思う) -------- リクエストがあったんで、樺地。ついでに跡部の誕生日も兼ねてしまおうという…なんたる横着。たるんどる!← それにしてもぐだぐだすぎる文章です。納得がいかん。 081002 |