前世、来世の結末


--------------------------------------------------------------------------------

「来世では、」



「必ず、また貴女を見つけますよ」



「少しだけのお別れです」



「次こそは、貴女を離さない」




人間は、幾度となく転生を繰り返す。生まれては死に、そしてまた生まれる。いわゆる、輪廻というものだ。一般的に前世なんて本気では信じられていないが、輪廻転生そのものは間違いなく存在する。何故なら、私は前世もその前も、そのもっともっと前のことも覚えているから。

この事を言うと、親も友達もちょっと困ったような顔をする。だからそれは私だけの秘密。ただ、前世の記憶と言っても僅かなものだ。しかも記憶というよりも物語、自分で経験したという気は全くしない。時折ふと思い出したり夢に見たりしたときに、あぁそういえば、と他人事のようにぼんやりと思う。

鮮明に覚えているのは、最期の瞬間だった。
どの記憶もどんな曖昧な記憶も、最期だけははっきりとしている。生活も育ちも身分も立場も、まるで共通していない私の前世たち。しかし終わりのシナリオには、微妙な差異しかなかった。
私は殺されるか事故に遭うか、とりあえず血を流す方向で、若くして死ぬのだ。そして必ず、瀕死の私を抱える男。顔はよく覚えていない、でもその温かい手の温もりは覚えている。血に染まった私を抱きかかえながら、泣きそうな顔で笑う。


「来世では、必ずあなたを」


そして最期の瞬間に目にするのは、悲しみに染まったその瞳だった。




いつもの時間の電車に、乗り遅れた。慌てて出てきたせいで、乱れた髪を撫でつけながら時計を見る。あぁ、今日は遅刻ギリギリだ。
平日だというのに、朝から前世の夢を見てしまい起きれなかった…なんて遅刻の理由にはならない。毎日電車を乗り継いで学校に通う今世の私に、前世の私のことなんて関係ないのだから仕方がない。

今日のようなことは、稀にある。でも記憶だろうが夢には変わらないので、いつもなら気にしないのだけれど、しかし今日は今朝の夢からなかなか立ち直れなかった。理由はわかっている。今日は、終わりの夢だったのだ。

私は夢の中で男の人に抱き締められていた。彼の慟哭が、どこか遠くから聞こえているような気がした。私はまた殺された。また。

夢が、怖いわけではない。もう何通りも自分の最期は見たから。それに今私は生きている。あれは私ではない。でも、鮮明な夢をみると不安になった。私はいつからか考えていたのだ――私の前世たちはみんな、似たような最期。ならば、私も同じように死ぬのではないか、と。

年齢と死因と恋人。一致する符号に当てはまってしまったら、死ぬのだろうか…私は確実にその年齢へと近づいている。もう、殺されてもおかしくはないのだ。しかし特別な異性はいない。それだけが、私を正気に保っているのかもしれなかった。

あの人は、また転生しているのだろうか。私を探しているのだろうか。脳裏に浮かぶのは、いつも悲しそうな瞳だ。会うのは怖い、それが私の死を意味するのなら。でも、彼を救ってあげたいと思うのは前世と今と、どちらの私なのだろう。



電車が到着して、どっと人が動き出す。人波に流されながら電車に乗ろうとした私は、しかし乗り込む直前、不意に手を引かれた。

目の前で、電車の扉が閉まる。これを逃したら、確実に遅刻決定。しかし私の意識から電車なんてすっかり消えている。ただ、腕を見ていた。


人の捌けたホームに取り残された私の腕を引いていたのは、綺麗な顔の青年。何も言えず目を丸くした私に、青年は寂しげな表情を浮かべた。不思議な髪型に不思議な色の目。ごく普通な制服を来た彼は、しかし他とは全く違う雰囲気を醸し出している。


「絶対に、離しません」


透き通ったような声だった。


「もう決して、死なせはしない」


被った、夢の中の男と。
左右違う目の色、特に右の赤目が悲しみに暮れるのが見える。力強いその手は、今朝見た最期と同じように温かい。同じように。


「……僕の運命の人」


その言葉に、涙が伝うのがわかった。
彼の瞳に私が映る。その瞬間、確実に何かが始まった。それが例え、死へのカウントダウンだとしても私は逃げない。
もう、この人を泣かせたくないから。




前世、来世の結末



骸誕
骸の輪廻ネタはよく書きたくなる。

090618



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -