待ち人



十年程前に捕らわれてからというもの、私が直接骸に会える機会は、かなり減った。というよりも会うという行為自体が、骸の生身の体では不可能に近くなってしまったので。だから会うときは、クローム髑髏さんに媒介になってもらい、骸が具現化する。


「そんなにわざわざ来てくれなくても、いいのに」

「おや、名前は僕に会えて嬉しくないのですか」

「嬉しいに決まっているじゃない!…でも、それって凄く負担が掛かるんでしょう」


それ、というのは具現化だ。私は術師でもなければそもそもマフィアとは縁のない生活をしていた人間なので、一体どうなっているのかはいまいちわかっていないのだけれど。


「それにしても、もう十年なのね」


髑髏さんが媒介となっていると考えると気恥ずかしいが、今は確かに骸だ。なかなか会えない恋人の胸に抱き寄せられて、私は甘えるようにすがりつく。
ふわりと香ったのは香水だろうか。具現化といえど、それは生身の体と同様に成長していくらしい。十年経った今では、美少年と言われる類だった骸の綺麗な顔立ちも、すっかり大人の色気を纏っている。


「どうしましたか、いきなり」

「ううん、ただ、なんか昔の骸が恋しくなった」


中学生の時の骸。ただし骸は中学生らしからぬ中学生だった。厳しい過去のお陰で周りの生徒よりも幾分も大人びて見えていたが、しかし今から思うとやはり子供らしい可愛い言動が多く、身勝手な台詞も言動も、かわいらしかったなんて思う。


「それでは、今の僕じゃ不満だと?」

「そんなこと言ってないじゃない」

「そう言っているようなものでしょう」


頬を膨らます骸。今の骸も、昔と変わらず可愛らしい一面もあるみたい。
くす、と笑ったら、顎を掬われて口付けられた。


「名前は自分の身をわきまえて下さい」

「……っ」

「僕のものなんだから」


その妙な独占欲と甘い吐息に胸が一杯になった。


「骸こそ、浮気なんてしちゃだめよ。ミルフィオーレには可愛い女の子が沢山いるって聞いたわ」

「クフフ嫉妬ですか?」


可愛らしい人だ、と額にキスが落とされた。
骸は長期任務や危険な任務に就く前に、必ずこうして私に会いに来る。今日もそれで、骸はミルフィオーレに侵入するらしいと聞いた。最近マフィア情勢は危うい。ボンゴレも、いつどうなるかわかったものじゃなかった。


「できるだけマフィアにかかわらないで下さい。ボンゴレにも顔を出さないこと。そのうち犬や千種をこっちに寄越します」

「…本当に大丈夫なの?」

「クフフフ、僕の心配はいりませんよ。僕は貴女の元へ帰ってきます。この身が滅びようと、必ずね」


滅びたら意味がないじゃない。
口を尖らせた私を優しく包んでくれる。華奢だけど、私より大きな体。安心する。


「いってらっしゃい」

「行ってきます」


貴方が帰ってくるまで、必ずここで待っているから。




待ち人





骸誕
090614



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