キスのお次は何をお望み?


へらへらした笑顔を見て、すぐにわかった。銀時は、私に嘘ついている。


「銀時の嘘つき」


ふい、と目を逸らして静かに、でもたっぷりの皮肉を込めて吐き捨てる。すると銀時はすぐに笑顔を引っ込めて言い返してきた。


「嘘つきじゃねーし」

「嘘つきじゃん」

「なんで俺が嘘つくんだよ」

「あら、じゃあその首筋のキスマークは何かしらね?」


銀時は、慌てたように首筋を手で押さえた。けどそこにキスマークなんてなくって。


「やっぱりね」


この男の愚かさにちょっとだけ笑いながら言ったら、彼は苦々しい顔をした。
実際、鎌なんか掛けなくても分かっていた。おかえりと言ったときに、彼から香ったフローラルは、水商売の女特有のもので。酔いも回っていたし、何よりも、彼は女遊びの後は決して私を抱こうとしないから。
どうせ仕事の依頼か打ち上げで、お妙さんのお店なんだろうけど。でも、不安だ。形の上ではこの男の女の私、けれどこの男は私の側を離れてゆくのではないかと。
とはいえ、こんな事は日常的な事。溜め息ひとつで片づけて、さっさと寝てしまおうと立ち上がった。しかし途中で強い力に引かれ、私は元のソファへ倒れ込む。


「――なぁ、俺はお前が全てだ。それだけは本当だから」


気づいたら私の上に覆いかぶさっていた銀時が、真面目な顔をしてじっと此方を見つめていた。さっきのへらへらした様子はどこにもなくて、その深い哀愁を秘めた視線に、飲み込まれそうで。


「名前」


あまりに寂しそうに私を呼ぶから、私は結局、この男を許してしまう。この男と連れ添うのが、どんなに苦難の道を行くことなのか薄々感づきながら。
その寂しさは、私が埋めてあげる。幼子にするように、その柔らかい髪に指をからめ、私は銀時の唇にキスを落とした。






「ってことで、俺はキャバクラなんかに行ってねーし、そのせいで今日の収入無くなったわけないって信じてくれるよな?」

「――銀、」


こんなにも寛大な心を持った私だもの。真面目な顔のままぬけぬけと言いのけた彼に、拳骨をお見舞いする位、許されるだろう。





キスのお次は何をお望み?




title:みっけ


銀さんハピバ
091010



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