運命のひと



「で、どう思うよ?」


いや、いきなり聞かれても困るから。何て答えればいいかわからないから。
内心で突っ込むが、僕のそれは声にならない。僕に助けを請うようにすがりつく銀さんの姿が、あまりにあまりだったからだ。瞳から輝きが失せているのは前からだが、今日は加えて血走っていた。そして乾いた笑いを浮かべながら、僕の袖を掴んでいる。
…あんま絡みたくないんですけど。怖いんですけど。



――友達の友達に恋愛相談されたんだけどさ、俺そういう経験あんまないから、お前に話聞いとこうかなって思ってな。
そんなベタな切り口で、銀さんは出勤早々の僕を捕まえたのだった。血走った目で。取りあえず一通り聞かされた話は、ある男が年下の可愛い女の子を好きになり、しかしどうしたものかと切ない恋に身悶えているらしい、というようなものだった。


「そいつ本当に悩んでんだよ、助けてやりてぇんだよ」


ひとまず、銀さんを落ち着かせてソファに座らせた僕は、その向かい側に座って話を聞くことにした。かつて銀さんがここまで僕を頼ったことがあっただろうか…いや、ない。僕と銀さんの仲だ。協力するべきだろう。それに、こんなに憔悴した銀さんを放置しておいたら後が怖い。


「僕の薄い知識で良ければ…あ、でもそれは神楽ちゃんとか女の子に聞いた方がいいんじゃないですか?」

「馬鹿、そんな相談してみろよ。あいつに話したらかぶき町中筒抜けだ」


もっともな意見である。僕は身の回りの女性陣を思い浮かべて苦笑いをした。


「それにお前に経験はないだろうけどよォ、ほら、あれだろ。どうせギャルゲとかやってんだろ。その知識でどうにかしてくれよ」

「やってねーよォォ!!というか、これってつまりは銀さんがどうやって名前さんに告白するか相談に乗れってことですよね」

「ばっ…!だから俺じゃなくて、俺の友達がな、」

「銀さんが名前さんを慕っているのは、僕でさえ分かりますよ」


というか、今時「友達の話なんだけど…」で恋愛相談持ちかけるってかなり古くないか?あまりにベタである。しかし当の本人はそれに気づいていないのか、ショックを受けたように、目を見開いて口を閉じた。そして、ぐったりと再びソファにもたれた。


「…でもよォ、本当に悩んでるんだぜ?」


名前さんは最近かぶき町へやって来たばかりの、何故か縁があり時折万事屋に出入りしている女性である。確かに彼女は、かぶき町の女性陣にはない女の子らしい魅力を醸し出していた。


「俺と名前ちゃんとは運命の出会いだったからさァ。最近、何をしててもあいつの事ばっか考えてて…自分でも困ってるんだわ」


照れくさそうに銀さんは頬を掻く。その表情に浮かんだ笑みは、とても優しく柔らかいもので、僕の方まで照れくさくなってしまう。


「そんなに好きなら、単刀直入にぶつかってみたらいいじゃないですか。シンプルなのが一番伝わると思いますよ?」

「ばッ…俺が好きだなんて軽く言えるわけねぇだろコノヤロー!大体、しくじったら俺の人生が終わるよ?」

「大丈夫ですって。勝算はありますよ」


訝しげに眉を顰めた銀さん。僕はにこりと笑って肩を叩いた。


「銀さんは僕を信じて告白してみてくださいよ。手は打っておきますから」


面倒くさかったから適当に切り上げたのだが、勝算というのは決して嘘ではない。銀さんと名前さんの仲なら誰も気にしないし、心配もしないだろう。お互いに気づいてこそいないが、二人は傍目からみても明らかに両想いである。じれったく思い見守ってきたが、ようやく決着がつくのかと安堵したいくらいだ。

僕がそのように息をついたのは、つい今朝方だったと思う。





「で、どう思う?」


つい数時間前と同じ台詞で問いかけられた。物凄い力で腕を掴まれ、そして問い詰めるように彼女は僕を見つめている。…あれ、デジャヴ?


「ちょっと、新ちゃんきいてるの?」


呆れられたと思ったのか、目の前の少女は眉を顰めた。今にも泣き出しそうな表情に、僕は慌てて答えた。


「あぁ、うん聞いてるよ」

「じゃあどう思うかな。その友達、本当に凄く悩んでるからどうにかしてあげたいの」

名前は目を潤ませる。
友達の話として自分の相談をするなんて、とてつもなくベタだ…って、僕さっきも同じツッコミしたような。


「新ちゃんが恋愛に疎いのは知ってるけど、身近な男の人って他にいなくて…田舎者の年下ってやっぱり嫌かなぁ?」

「名前さん、銀さんなら全然年下大丈夫ですよ。むしろバッチコイです」

「べ、別に銀さんのことじゃなくて、一般論として私は、」

「いや、ばればれだから」


「えええ、嘘!?」と、更に顔を赤らめた名前さん。やはり初な感じがとても新鮮だ。
それにしても、これでは今朝と全く同じ流れである。申し合わせたように同じ問いかけ、同じ反応をする二人は余程同じタイプなのだろう。どうりで気が合うわけだ。伊達に、お互い運命の出会いだと言い張っていないわけだ。


「私がこっちに来たばかりの時に、危ない人に絡まれたの。本当に怖くて、でもその時助けてくれたのが銀さんなんだ」


…白い白馬ならざる、白いスクーターの王子か。恋をすると少なからず、目にフィルターがかかるものだ。どんなに情けない姿でも、素敵に見えるのである。恋は盲目、気持ちはわからなくもないけれど。


「それがきっかけで知り合ったんだけど、そのあと行く先々で会って…凄い偶然じゃない?運命だよ!」

「(その運命は銀さんが仕組んでるっぽいけど)」

「新ちゃん、疑ってる?」

「そんなことないよ。で、告白しないの」


なんか、さっきも同じ流れの会話をしたような気がするんですが。


「こここ告白なんてできないよ!」

「大丈夫だよ、銀さんも名前さんが好きだと思うよ?」

「そんなわけないじゃない!だって、私可愛くないし、田舎者だし…」


名前さんの顔が再び歪む。今にも泣き出しそうな彼女は、僕の手を離さない。泣きたいのはこちらだ。なんでこんな面倒くさい二人の仲を取り持たないとならいのだ。

涙をこらえる彼女に困惑していると、突然玄関の扉が開く。銀さんが帰ってきたのだ。銀さんは、名前さんの履き物を見て、嬉しそうな顔をした。しかし泣きそうな彼女の顔をみて、すぐに険しい表情を浮かべる。


「…新八、何名前ちゃん泣かせてんだよ!」

「ぎゃあああ!」


目の色を変えた銀さんが、僕を突き飛ばして名前さんを腕で抱え込むように支えた。


「名前ちゃん大丈夫か…?」

「うん、銀さんありがとう…」


お互いに手を取り合ってうっとりしている。しかしすぐに恥ずかしそうに頬を逸らす。お互いに好いてる癖に面と向かうと目も見れないとか、どこの中学生だ。その何ともじれったい様子にやきもきしていると、二人の目が助けを請うように僕に向けられる。


「二人とも、お似合いですよ」


呆れて、半ば投げやりに言うと二人の顔は更に赤くなった。
全く、見ているこっちが恥ずかしい。




運命のひと




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夜弥さんに捧げます。

090612



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