突拍子もへったくれもない



「痛…っ」


その声が響いた瞬間、スパナが手に持っていた工具を落とした。



相変わらず部屋は汚くて年末の大掃除の意味はどこに行ってしまったんだろうと呆れ気味に考えてたんだけど、多分片付けるだけですごく時間を要してしまうし逆にどこに何があるか分かんなくなりそうだから、もう私は諦めていた。

でも、そんな矢先に私は色んなものに隠れて見えなかった何かで、指先を切ってしまった。


「…血出ちゃった。」


久しぶりに目にした赤色にちょっとは怯んだけど、特に痛い訳じゃないしなめとけば治ると思ったから、そのまま放っておこうとやっていた作業を再開させようとしたのに、突然私の体が浮き上がった。


「わ、ぁ…何!?」
「…手、切ったのか。」


状況が分かんなくてあられもない声を上げたけど、スパナの顔がすごく近いことと背中と膝の裏にある感触で、スパナに抱え上げられたことが分かった。
(…ていうか、近い。)


「あ、うん…でもちょっと血が出ただけ…」
「、!ばんそこ…っ」
「え、いいよ。そんな痛くないし」
「ダメ!」

あんまり真剣な顔でこっちを見るから、思わず一時停止してしまった。本当に全然痛くないのに、何だかものすごく心配してくれているらしい。それは確かに嬉しいけど…私のこと抱えたまま、この部屋でばんそこ探すのは無理だと思う。


「ねぇ、スパナおろして。」
「ダメ。」
「ケガしたのは手なんだよ?」
「ダメ。」
「それにこれじゃ探しにく」
「ダメ。」


ダメ、の一点張り。どうやら私の言い分を聞く気はないらしい。私を抱えたまま忙しなく部屋の中を動き回っては、やはり見付からないらしく少し足を止める度に焦りを含んだ表情でため息をつく。


「スパナ、もういいよ。」
「ごめん…」
「ううん、全然痛くないし探してくれただけで嬉しいから。…ありがとう。」


やっとスパナが私を下ろしてくれる中で、本当に嬉しかったから自然と笑顔になりつつお礼を言ったけど、そんな私とは対照的にスパナはまるで幼い子供のようにしゅんとして眉根を下げている。
…別に気にしなくていいのに。


「助手子。」
「何?」
「…お詫び。」


初めてここに来たときに聞いた言葉を紡ぐから、何だかなつかしいなって思って、渡されるだろう色とりどりの飴を受けとるために手を伸ばしたのに、そこには全く違う結果が待っていた。


「……っ!!」


飴の代わりに私の手のひらに与えられたのはスパナの手の温もり。
そして傷ついた指先に与えらたのは紛れもなくスパナの唇と舌の感触。


「なめれば治るって聞いたから、……これで許して?」



突拍子もへったくれもない


*

夜弥さんからいただきました!
連載設定で書いてくださるとはおもわなかったので、どきどきしてしまいました(笑)夢主が通常倍増しでかわいいです、スパナかわいい!!本当にありがとうございました!





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