ジョットはとっても気まぐれな人で、猫みたいで。だから、もてたりするのだけど。私は彼から告白された正式な『恋人』なわけで、周りもそれを知ってる。
元パティシエールの私は、たまたまボンゴレにパーティの席に並ぶケーキの用意を頼まれて、そこでジョットに出会った。かっこいい、というよりも、神々しいくらいに綺麗なひと。一生話すことなんてないだろうから、目の保養にと眺めていたらばっちり目が合ってしまった。「・・・あ」思わず声を漏らしてしまったけど、目だけはどうしても逸らせない。真っ直ぐで綺麗な目。絡み合った視線は、彼がにこりと顔を綻ばせたのでぷつりと切れる。顔が赤くなるのが分かって、思わず私が下を向いてしまったからだ。ああ、失礼なことをしてしまった・・・!!ど、どうしよう。隣にいる赤い髪の人めちゃめちゃ恐いよ・・・!!なんて冷や汗を流していると、「今回デザートを作ったのは君だろう?」と上から声を掛けられた。「え」と呟いて顔を上げると、月の色をした彼が立っている。「あ、・・・え、と、はい。私です」と答えると、嬉しそうに笑いながら「今度は俺の為に作ってくれないか」と言われた。当然、火がついたように熱くなる頬。反射的にこくりと頷いた私を、どうか責めないで欲しい。

だけれど、これは告白なのか。

今更ながら思い返してみれば、あれは告白とは少し違う気がする。でも、でもジョットは私に触れる時凄く優しく触ってくれるし、彼も私を女性の方に紹介する時は『婚約者』として・・・ってあれ?もしかして、マフィア間の色恋事が面倒だから私に『(仮)恋人』をさせているだけ?ただの町娘の私は目立った容姿をしてるわけでもないし、権力や何やらがあるわけじゃあないから『偽装恋人』にはもってこいだ。ジョットはもてる。だから、余計な感情を持たれる前に、私を使って?
なんだか悲しくなってしまって、ぴたりとチョコレートを刻む手を止めてしまった。今日はザッハトルテを作ろうと思っていたんだけど。余計な感情を篭めてしまったら、ケーキは美味しくなくなってしまう。

でも彼はいつもと同じように私が作るお菓子を楽しみに待ってる。

ちょこちょこボンゴレ本部に来てお菓子を作っている私だけど、それはジョットに頼まれたからというわけでもなく、私が勝手にお邪魔して勝手に作ってるだけ。最初はGさんも私をあまり本部に入れたがらなかった。それは私が他人だから、で。今じゃ譲歩してくれて、入れてくれるけど。

こうやって整理していくと、どんどん出てくる『恋人じゃない』っていう考え。
多分ジョットは私のケーキが気に入っただけなの。私が勝手に勘違いして、それで。今気付いて良かったと思うべきか、気付かなければ良かったと思うべきか。とりあえず手は動かさなきゃ。材料が無駄になっちゃうから。そして、明日からはここには来ないことにしよう。Gさんだって迷惑だと思ってるはず。ここは大マフィアボンゴレの本拠地なんだから、本来なら私みたいな部外者がいて良い場所じゃないもの。



「ジョット」

「・・・どうした?浮かない顔だな、何かあったのか?」




沈黙したまま何も言わない私に、ジョットは立ち上がって少し離れた私まで歩み寄ってくる。頬に触れてきたジョットの手は、冷たい。「ごめんね、ジョット。今まで迷惑かけて」「・・・何の話だ?」「明日からはもう来ないようにするから」「おい、」「鬱陶しかったでしょ?うざったいけど、ジョットは優しいから・・・何も、言えないよね。ごめんね。今まで優しくしてくれて、ありが───」言いかけた私の口を塞ぐように、身体に手が回される。一瞬停止した思考回路は、復活すると共に顔に熱を集める。今、私、抱きしめられてる?耳に吐息が触れる。ジョットの香りが鼻腔をくすぐる。触れた場所が、熱い。全身でジョットを感じてる。ばくばくと早鐘を打つ心臓の音、ジョットに聞こえてるかな?「どうりで、」と耳元でジョットの声がする。溜息混じりに呟かれたそれは、呆れと安心の色をしていた。



「どうりで、今日のザッハトルテは味が妙だと思った」

「み、妙って・・・ひどい・・・」

「甘いんだが、甘くない。お前の心が揺れていたからだろう?」




一度だけ強く抱きしめられて、あっさりと離れるジョットの香り。名残惜しいと思いながら、私のお菓子はそこまで彼に感じられていたのかと思うと嬉しかった。「そうか、はっきり言ってなかった俺も悪いな」と呟き、私に顔を寄せる。反射的に瞑った瞼の上に柔らかい感触があって、離れたのを確認して恐る恐る目を開くと、最初に会った時のように柔らかく笑うジョットがいた。「俺は、お前の菓子が好きなんじゃない。お前が作る菓子だから、美味いと思ったんだ」困ったように言われたその言葉を聞いて、今度は私からジョットに抱きついた。






よりより、
(君を想う)










娯楽様に提出。お題に沿ってない気がする。

20100803




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