彼とのキスはまるで麻薬のようだと思う。そう言ったら彼はきっと呆れたように目を細めるのだろう。そしてあの低い声で呟くのだ。


「もっとマシな例えはないのか」
「褒めてるんだよ?」
「どこがだ。麻薬なんてイメージ悪すぎだろ」
「ええー」


跡部の部屋のソファは柔らかい。初めて座った時は驚いた。余りにふかふかで。そのソファに押しつけられるように口づけられる。最初は隣に座っていたというのにいつの間にか押し倒されそうになっている状態に少し笑う。


「今日は機嫌がいいな」
「いつもいいよわたしは」
「おい」
「いつもそんなに機嫌悪そうっていいたいの?」
「機嫌が悪いって言うよりは気まぐれだろ」
「そんなことないのに」
「…メス猫」
「はあ!?なにそれ怒るよ!」
「冗談だ」


跡部はそう言って楽しそうに笑う。機嫌がいいのはわたしじゃなくて跡部の方だ。いつもより饒舌だし、それにいつもよりキスが甘い。



跡部はキスが上手い。優しいキスも、奪われるような激しいキスも。試しに自分から口づけてみても、すぐに主導権は跡部に移ってしまう。


そしてキスをされた後はわたしは必ず、まるでアルコールでも含んだかのように、全身が火照ってしまうのだ。


「猫は猫でも」
「…?」
「お前は俺の飼い猫だろ」
「飼うって、なんかやだ」
「…こうやって餌付けされてんじゃねえか」
「…ん…っ」


あながち間違ってないかもしれない。跡部のキスで餌付けされて、周りなんて何も見えなくなってしまうわたしは、確かに跡部に飼われているのかもしれない。認めたくはないけれど。


だけれどそれは跡部が悪い。こんなに甘いキスをするから。依存してしまう程に甘いキスでわたしを支配するから。


だってほら、だからわたしはテーブルの上のアイスがとっくに溶けている事にも、気がつかない。

Rum raisin

(100818 31様に提出/葵)
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