「なあ、綿貫はどう思う、桐生のこと?」


 半田がわたしに問い掛ける。どう、とは一体。


「半田くんはどう思います?」
「うーん、変わってるっつーか、イタいっつーか……」


 それはわたしもフォローし難い。わたし自身感じていることであるから。
 帰り際に雷々軒に寄らないか、と半田とマックスに誘われた。今のはラーメンが運ばれてくるのを待ちながらの会話である。


「ちょっと怖いよね、あの子」


 一人何も頼まなかったマックスは、自販機で買った缶のコーラを片手に、そう呟いた。まあそれも、否定できない、よなあ。あの調子で普通なら知らないはずの知識をひけらかしては、そのうちストーカーとでも思われてしまうのではなかろうか。


「お二人とも、桐生さんがあまり好きでないようですね」
「そりゃあ、だってあいつ裏表激しいもん」
「綿貫は嫌いじゃないわけ?」


 マックスが強い語調でわたしに詰め寄る。カウンターテーブルに片手をついて仰け反りつつ、「なんとも言えません、あまり関わりがないもので」と答えた。


「ふうん。変なの。あんなに悪い噂ばっかりなのに」
「噂はあくまで噂ですし」
「綿貫だってきつく当たられたんだろ?円堂が言ってたぜ」
「あれはただの人見知りのように見えました……」
「綿貫はさ、甘すぎるんじゃないの?」


 甘い。そうだろうか。悩んでいると、マックスが続けた。


「怖いんだよあの子。プライベートなことをびっくりするぐらい知ってるし、他校のこととかめちゃくちゃ詳しいし。例えば僕らの技の名前とか、教えてもいないのに知ってるんだよ、こうしてはっきりは言いたくないけど、ストーカーみたいじゃないか」


 おっと手遅れだった。すでに疑惑の目で見られていたようである。さらに半田が勢い込んで畳み掛ける。


「あいつ媚びるみたいにさ、男子にはきゃぴきゃぴするくせに、女子にはすんげえ冷たいの。綿貫がされたのなんかもうほんと、序の口。シカトなんて当たり前で、嫌みも皮肉もガンガン飛ばすから、最初は仲良くしようとしてた木野なんかも、最近はなるべく近寄らないようにしてるぐらい」


 それは重傷だ。木野さんが避けるなんて(もっともそれはいじめではなく木野さん自身のための自己防衛だろうが)、よっぽどな態度を取ったのだろう。しかし珍しい、この世界の女の子は女の子のわたしから見ても大変魅力的だというのに、辛く当たるなんてもったいない。女の子が純粋でかわいいなんて、こんな世界でしかあり得ないだろうに。


「でも、わたしは、ひどくする桐生さんを見ていないから」


 それでもなお桐生を庇うような発言に苛立ったのか、マックスがわたしを見据えて言う。


「……もしかして僕らがうそついてると思ってる?」
「まさか!わたしはただ、桐生さんに絡んでないからなんとも言えないだけで、お二人を傷つけるつもりなんて微塵も、だからその、嫌な思いをさせてしまったのなら、……ごめんなさい」


 俯いて謝ると、半田があわてたように「いやいや俺らこそごめん、無理やり愚痴みたいなのに付き合わせちゃってさ」と言った。その言葉に被せて、ラーメンが二人前テーブルに出された。そこで口論は終わりとなって、雑談がはじまる。次のテストいつだっけとか、帝国には一体どんな奴らがいるんだろうとか、今やってる映画が面白そうだとか。口論は止めて正解だった、こんなにおいしいラーメンなんだから、肴は楽しい話の方がいい。






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