明らかに疎まれている。いくら鈍いわたしでもわかる。激しい視線が、ぞんざいな態度が、刺々しい声が、わたしに気付かせる。つんとした態度は、初対面の頃より増して攻撃的なものに変わっていた。どうして、なんて考えなくてもわかる。そりゃあ疎ましいだろう、自分の好きな人たちと仲の良い人間なんて。ファン的な心理のもたらす言動の恐ろしいこと。それがまた、わたしに対するだけに留まらず、木野さんや音無さん、雷門さんにまで及ぶのだから、余計にたちが悪い。向こうでもこちらでもさばさばしていると評されたわたしには、理解できても、共感なんてできない。暗い表情を浮かべる音無さんを見ていると、少しだけ、桐生への嫌悪感が生まれてしまった。


「ごめんなさい、青子さん、でも、もうすこしだけ」


 静かに首を横に振ると、音無さんはまたうつむいた。握り締められて皺になったスカートに、はらはら涙が落ちる。かわいそうになあ、とどこか他人事のように感じてしまうわたしもなかなか外道なのかもしれない。部室のベンチにて。泣いている女の子を慰めるのは至難の業である。

『どうせ野次馬根性でしょ』

 次の試合に向けて、と他校の情報を集めるべく奮闘していた音無さんを傷つけた桐生の言葉である。そんなことはないと分かっているはずなのに。そんなことを言っては音無さんが傷つくと分かっているはずなのに。むやみに人を傷つけるのはよくない。たとえその持論がただの自己満足だ偽善的だと罵られようと、誰かが心に傷を負うよりは数倍マシだ。ちょっと言葉を飲み込むだけで、丸く収まるのなら、安いものじゃないか。


「野次馬、ねえ……」
「青子さんもっ、そう、思いますか」


 涙に濡れた瞳がわたしを見つめる。不安げな色を宿した瞳を、どうしたら元のように輝かせることができるだろうか。とりあえず否定した。本心であるから、とりあえず、というとおかしいのかもしれないが。


「まさか。音無さんなりのサポートのかたちでしょう」


 言うと、一瞬遅れて、また嗚咽が漏れた。優しくされると泣きたくなる気持ちはよくわかる。泣き止ませるよりも思い切り泣かせたほうが良い場合の方が多いことも、わかっている。それでも、泣いている女の子を前に、なにもせずに座っているだけというのはなかなか堪えた。





 何分経ったのだろうか。やっと泣き止んだ音無さんは、普通の元気な女の子の顔に戻っていた。しかし心底安心したわたしの胸に霞をかけたのは、ほかでもない音無さんだった。


「桐生さんがあんなにひどい人だなんて思いませんでした!」


 驚いて目を見開く。それからまくしたてられる、愚痴、愚痴、愚痴の嵐。桐生のようなえげつない罵詈雑言は含まれていなくとも、嫌な気持ちになったのは間違いない。


「ね、青子さんもそう思いません?」
「あ、その、あー……」


 わたしの曖昧な返事を余所に、音無さんのマシンガントークは続いた。あまりそう言ってはいけませんよ、といつものように返せなかったのは、彼女が桐生に傷つけられる瞬間を目にしたからだろうか。優しくすれば優しくされる。それと同じように、傷つければ傷つけられるのだ。それはもしかしたら、わたしのような第三者がどうにかできることではないのかもしれない。頭はこんがらがる一方で、なんだか考えるのが面倒になってしまって、ただ相槌を打った。ふと気付くと音無さんはすっきりしたような顔で部室の扉に手をかけていた。


「ごめんなさい、長く付き合わせてしまって。でもお陰ですっきりしました!部活、行きましょう!」


 あまりに爽やかなその笑顔に促されるままに、わたしはベンチを立って外に出た。強い日差しに目を細め、日焼け止めを忘れた自分を呪った。



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