久々に学校に来た。クラスの子たちはみんな優しかった。「長期休暇?海外旅行でも行って来たん?」「インフルとかじゃねえよな?」「お前のぶんのプリントとか全部机に突っ込んであるから」「青子がいないから豪炎寺が寂しそうだったよー」ああいとしい、懐かしい。こうして安心できる居場所があるって素晴らしい。わたしも笑いながら答えた。
 どうやらこの一週間で席替えをしたらしく、豪炎寺がわたしの後ろの席になっていた。椅子を傾けて豪炎寺に話しかける。


「ねえ、あとでノートとか見せてよ。一週間分全部とは言わない、数学だけでいいから。お願い」


 豪炎寺がきょとんとしてわたしを見つめる。えっもしかしてお前も数学苦手な口か。仲間か。文系同盟組むか。わたしの思考を余所に、そっと豪炎寺が口を開いた。


「お前、タメ口……」
「え、……あっ」


 自分でも驚いて口を両手で塞いだ。彼らに近づきすぎないように、世界に愛着がわかないようにと、敬語を常に装備していたのに、その鎧がいとも容易く剥がれ落ちてしまった。まだ目を見開いている豪炎寺に、おずおずと尋ねる。


「い、いやだった……?」
「そんなことは!」


 あわてて否定する豪炎寺が面白くて笑った。懐かしい、このやり取り。生前には当たり前に交わしていた会話だ。ノート貸してとかお前休んでんじゃねーよさびしいだろうがとか、そんな言葉たちとまた触れ合える時が来るなんて。嬉しくて嬉しくて頬が緩みっぱなしである。豪炎寺もつられて笑っていた。


「なんだか本当に仲良くなれたようで嬉しいよ」


 こういう小恥ずかしいことをさらりと言うからこそ彼は男女問わず人気なんだろう。彼らも生きているんだ。そう思ったらなんだか生を謳歌したくなった。いや、もうしているのか。







「雷門さん」
「……夏未でいいわ、その方が呼びやすいでしょう」


 ふいと目を逸らしながら言う彼女の可愛いこと。なるほどこれがツンデレか、と内心頷きながら本題を口に出す。


「ご迷惑をおかけしました、それから、たくさんありがとう」


 ぺこりと頭を下げる。みんながわいわいやっている教室で、かしこまったやり取りをしているわたしたちはどれほど滑稽だろう。加えてわたしはこのクラスの生徒ではない。しかしわたしは真剣である。知り合ってから少ししか経っていないのに、彼女にどれほど救われたことか。口に出してはすべて安っぽくなってしまいそうで気持ちなんてとても言葉にできなかったけど、彼女、……夏未の両手を取ってまた言った。何度でも言う。何度でも言える。同じ温度で、同じ言葉を繰り返せる。それほど色濃い感謝の気持ちを、彼女に抱いているのだ。


「ありがとう」


 照れくさかったのか、「何回も言わなくたって聞こえます!」と言われてしまった。しかしわたしの両手を払わなかったのは、つまり夏未がそれだけ優しい子だということ。








 久々の授業が終わった。
 さあ部活に向かおうと、リュックを背負って教室から出ようとすると、ちょうど廊下を通っていた風丸に呼び出された。


「なに?」
「お前、これ」


 それは、図書室の本の返却を催促する旨のプリント。そっかそういえば風丸って図書委員か。なんか似合わん。とりあえずじゃあさっと返してさっと部室だ、今日ははりきって応援しちゃうぞーと高揚した気持ちで、本を抱えて教室を出た。



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