ドアのベルが鳴った。知らないふりをした。わたしは眠っているんです、気付かないんじゃなくて気付けないんです、あしからず。布団を頭から被って二度寝しようとした。
 学校に行かなくなってから七日目。外にも出ずにぐうたらしている。ありがたいのかそうでないのか判別し難いが、わたしが買い物に出ずとも神様は冷蔵庫に食べ物を用意してくれる。朝起きて冷蔵庫の中に食べ物があるのを見る度、絶望した。当然腹は減るので食べながら泣いた。消極的に死を望むことさえ許されなかった。
 ぴん、ぽーん。再び鳴らされた。しつこいなあもう。わたしは眠ってるんですってば。


「綿貫、綿貫、居るんだろう?出てきてくれよ」


 風丸だ。布団を握り締めた。知らない知らない。わたしは関係ないんです。わたしはもともとこの世界の人間じゃないんです。わたしが居なくたって世界は廻るんです。構わないでください。まあ、どれだけ心の中でわめいたって、彼に聞こえるはずもないから、彼が諦めるまでわたしはベルに堪え続けなければならないのだけども。


「おーい綿貫ー、雷々軒行こうぜー、サッカー部みんなでさあ」
「お前は能天気だよなあ。半田はほっといてよ、お前が行きたいって言ってたパン屋行こうぜ」
「ねえ青子先輩ってば、わたしと稲妻町巡りしましょうって約束したじゃないですか!パン屋だけじゃなくて色々いいお店知ってますよわたし」
「みんなでお出かけしましょ、青子ちゃん。どこでも連れて行ってあげるから」


 大人数で押しかけてきたらしい。布団の中で膝を抱え込んだ。わいわいと騒ぐ声に、今にも苦情が来るのではないかとはらはらした。


「青子さん、わたしの話を聞きなさい。これは理事長の言葉と思って構いません」


 雷門さんの凛とした声がした。騒ぎ声も静まる。わたしまで息を潜めた。


「あなたが何を思い悩んでいるのか知らないけれど、そんなこと、あなたから言わなければわからないじゃない。ひとりで抱え込んでどうにかなるとでも思っているの?あなたはそこまで愚かだったかしら?」


 ぐさ、ぐさ、胸に言葉が刺さる。でも言ったってどうにかなるんですか、また死んでしまいたい、だなんて。どうか殺して、だなんて。


「心外だわ。わたしたちがあなたを軽んじているとでも思って?あなたを大切に思わない人たちが、今ここにこうして集まるかしら?考えてみなさい、あなたならわかるでしょう」


 もういいわ行きましょう、という声が聞こえた。みんなはそれに素直に従ったようで、足音が遠ざかっていく。あわてて布団から飛び出した。はだしのまま通路に出る。みんなの後姿があった。制服に鞄を持っていて、きっと部活が終わってからそのまま来てくれたのだろう。嬉しかった。居てもいいんだよとみとめてもらえた気がした。世界がどうのと考えなくてもいいんだよって、守ってあげるからって、言われた気がした。もちろんみんなはわたしがここに来た経緯なんて知らないけど、それでも嬉しかった。


「ま、まってっ」


 真っ先に振り向いたのは半田だった。わたしのみっともない泣き顔を見て、ぎょっとした顔をした。ひどいなこいつめ。


「ごめんなさいっ、雷門さん、も、みんなも、ごめんなさい、ありがとう、だいすき!」


 音無さんが駆け寄ってきてわたしに抱きついた。「この一週間とっても寂しかったんですから」だなんて、泣かせる。木野さんもわたしの顔を見て笑ってくれた。「目、真っ赤よ」あなたもね。染岡がみんなから顔を背けて鼻で笑った。「なさけねえ顔」その言葉そっくりそのまま返します、あなたも涙目だもの。誰よりも仲間を大切にする彼だから、きっと一マネージャーであるわたしが休んだのを、心配してくれたのだろう。泣かせるぜちくしょう。


 これでひと段落、と安心したわたしが、雷門さんの言った「愚か」そのものであったと気付くのは、また少し後の話である。






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