先生達は彼女達を叱ったようだった。詳しくは知らないけれど、先生も恐らく、桐生の今までの振る舞いを見ているから、甘やかした部分もあるだろう。それはしかし、桐生の自業自得とも言えよう。
 わたしのハンカチを手に部室へと向かう彼女は、凛々しく見えた。決意のようなものを漲らせて、大袈裟な表現かもしれないけれど、まるで何かと闘いに行くかのような背中をしていた。


「……桐生さん」


 まず声を上げたのは、木野さんだった。心配そうな声色だったので、きっと皆事情を聞いたのだろうと思った。桐生はじっと木野さんを見据えた。木野さんはその視線に少しばかり怯みながらも、おずおずと話しかける。


「大丈夫、なの?部活なら休んでもいいのよ?一番大事なのは身体なんだから、怪我が痛むなら、無理しちゃダメよ」


 やっぱり木野さんは木野さんで、優しいことに変わりはなかった。わたしが桐生に対して怒りを抱いていないと理解してくれたらしく、わたしを理由に桐生を嫌おうとは、していないようだった。それが嬉しかった。


「痣、出来てる」


 ところどころ、包帯や湿布では隠し切れなかった跡を見て、豪炎寺が痛々しげに目を細め、呟く。音無さんも続いて言った。


「保健室で、手当てとか、一応したんですよね?でもやっぱり心配、色々終わったらちゃんと、病院に行かないと」


 音無さんの態度に、わたしは少なからず感心した。ああいう酷いことを言われても、こうして優しくできるのは、きっと彼女も優しくされて愛されて生きているからだろう。家庭の裕福さとは違う種類の育ちの良さは、こういうところで顕れる。


「……ごめんな」


 円堂の謝罪に、皆がぎょっとして目を見開く。なぜお前が謝るのだと、場違いなセリフだろうそれはと、驚いた。


「俺、ううん、俺達、お前がそうして酷い目に遭ってるって、気付いてやれなかった。仲間だから守らなきゃって、そういうの、あったはずなのに。ごめんな、桐生」


 桐生がその大きな愛らしい瞳から、涙を零した。はらはらと雫を落として、それから震える声で、叫んだ。


「……今まで、ごめんなさい!」


 勢いよく頭を下げ、そのまま続けて叫ぶ。


「あたし、自分のことばっかで、周りなんて見もしないで、考えもしないで、自分ばっかりどうしてこんなに大変なんだろうって、そればっかりで……」






 それから、その先は、どうして語る必要があろうか。雷門サッカー部は、素直に謝る「仲間」に冷たくするほど、嫌な奴らではないのだ。



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