俺のクラスメイトに、一風変わった女の子が居る。だからどうしたという話なんだけれども、不思議なことに、腐れ縁というやつなのか、彼女……綿貫さんと接する機会が多い気がするのだ。彼女が一体どのように変わっているのか、と訊かれれば、ひと言で説明するのは難しい。頭はいいのに言動が馬鹿っぽい。何かに懸命に取り組む姿を見たことがない。部活の仲間に小突かれたり意地悪されたりしているのにへらへら笑っている。かと思えば変な所に怒りのツボがあるらしく、怒鳴ることも少なくない。かくいう俺はというと、彼女にはわりと気に入られているようで、席替えで近いところにくるなり「越前くんよろしく!」と笑顔で挨拶をしにくるのだ。
 そんな彼女は吹奏楽部に属していて、あのあほっぽいのが真剣に楽器を吹いているのなんてとても想像できないが、そんな彼女の風変わりな様も、芸術家気質というくくりにあてはめてみるとなりほどしっくりくる、ような気もする。テニスコートに音楽室からもれてくる音が届くたび、彼女が真面目に譜面に向かってクラリネット(実際クラリネットを担当しているのかは知らないけれど、なんとなく、そういうイメージ)を吹く姿を頭に浮かべては、やはりイメージは鮮明ではないので、すぐに消えてしまって、むしょうに、彼女の真剣な姿を目にしてみたいと思うのだった。





「あ、綿貫さん」


 その願いはわりとすぐに叶えられることとなった。とある土曜日の朝、俺は忘れ物を取るべく自分の教室へと走っていた。ら、彼女と鉢合わせた。彼女はクラリネットではなくトロンボーンを持っていた。練習場所がないのか、楽器を片手に校内をうろついて真剣に空き教室を探している姿は異様とも言えた。


「越前くん。部活は?」
「まだ始まってない。課題忘れたから取りに来た」


 俺の言葉に、「越前くんが忘れ物とか」と笑いをこらえている彼女を見て、はたと気付いた。前髪が眉の上で切りそろえられていた。それまでトレードマークのように赤いピンで留められていたのが、なくなっている。彼女は俺の視線に気付き、楽器を持っていないほうの手で額を隠した。


「なんで隠すの」
「き、切りすぎたんだよ。失敗。みんなにも笑われちゃった」


 笑われた?そりゃまた、どうして。口に出そうとして、やめた。きっと彼女はそういう立ち位置なのだろう。だってその前髪は、普通に。


「似合ってるのに」


 彼女は驚いたように目を見開いて、それから視線をこれでもかというほどに泳がせて、うつむいた。楽器を握る手が震えている。


「越前くんそういうキャラだっけ」
「そうって、一体何が。笑うほどのことじゃないだろ。似合ってるよ」
「ああもう!」


 彼女は大声をあげて、楽器を両腕で抱えなおした。それこそ笑ってしまうほど真っ赤な顔で、しかし前髪を覆っていた手は退けて、ひっくりかえった声で言った。


「誉められなれてないんだから、やめてよねそういうの!越前くんみたいなイケメンが軽々しく似合うなんて言っちゃいけないんだよ!」


 そんな理不尽な、と突っ込む前に、自分の顔も赤くなるのがわかった。それを見ることもなく荒々しい足取りで去っていく彼女を、もうただのクラスメイトだと思えなくなってしまっていた。






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