※高校生パロのようなもの
人の気持ちって、隠そうにも隠せないものだと思うのだ。例えば、好意。わたしと同じクラスの一之瀬くんは、鮮やかなまでのやり方で、わたしに気持ちを見せ付ける。他人には気付かれないように、がっついて見えないように。恐らくこんなことは、アメリカのオープンな表現と日本の慎ましやかな態度の両方を体得している一之瀬くんだからこそできるのだろう。わたしの周りにいる男の子は、そこまで器用でもなければ、大人でもない。しかし彼は、日本人の大好きなチラリズムという嗜好に乗っ取って、且つ少年らしいまっすぐさも持ち、うまいことわたしにアピールしてくるのだった。こうして彼の主張の巧さを述べては、お前も彼のことが好きなんじゃないかとっとと付き合えよという突っ込みが聞こえてきそうだが、そうではない、わたしは彼の技術を尊敬しこそすれども、ときめいたりなんてしない。わたしはどちらかといえば、不器用ゆえの寡黙によって目に熱さを溢れさせているような、豪炎寺くんのような男の子の方が好みである。
「ねえ一之瀬くん、数学教えてよ」
そのくせこうして思わせぶりな態度をとるわたしは、こどものくせをしてすでに悪女と成り下がっている。優越感のようなものを爽やかな笑顔のしたに隠して「いいよ」と答える一之瀬くん、隠しているとばれてはいけないのよ、でもそれ、とってもお上手ね。うらやましいわ。
「青子はやっぱり、文系っぽいもんな」 「一之瀬くんは、英語上手なのに、理系っぽい」
好きな子が自分に関する想像をしてるのって、たまらなく嬉しいことだ。そうかなあ、だなんて、見え透いた仮面、外してしまえばいいのに。上手だし、わたしもそのやり方を自分のものにしたいとは思う、でも、もどかしいものがある。留学してたのなら、もうちょっと、わたしが気付いてもいいような、わかりやすいアピールを頂戴。思っても言うわけにもいかないので、微笑みながらうなずいておいた。
「あ、シャーペン、おそろいだ」
呟いて、彼の筆箱に指を突っ込んだ。摘み上げて自分のそれと並べるわたし、いとおしげに口角を上げる一之瀬くん。勉強する気も、させる気も、本当は、お互いに持ち合わせていないのだ。テスト一週間前の、どこかゆるい空気をはらんだ放課後の教室で、どうしてそこまで真面目になれようか。
「かわいい」
傍で見ていた人たちは、わたしがシャーペンを褒めたのだと思うだろう。でもわたしが見ていたのは実は、シャーペンに焦点をあわせた視界の端で、しあわせそうな表情を浮かべる一之瀬くんだった。
「うん、かわいい」
相槌を打った一之瀬くんの声につられて顔をあげれば、シャーペンなどではなく、まっすぐにわたしを見据えた綺麗な瞳があった。思わずどきり、として、口を噤む。
「かわいい、青子」
そうっとわたしの髪に指を通す彼は、アメリカナイズされた感じがしたし、それだけではなくて、歳相応のまっすぐさも、豪炎寺くんの持っているような、瞳からあふれ出る情熱も、持っていた。わたしはいつの間にやら、彼を落とした女の子から、彼に落とされた女の子に変わっていた。
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