基山くんは変わり者だと思うのだ。外見もさることながら、わたしと同い年とは思えない冷め方をしている。サッカーをやっているというから熱血少年なのかと思っていたけれど、新学年になって同じクラスになってから、どうやらそうではないらしいと気付いたのだ。


「基山くんおうちどこなの」


 わたしの突然の質問に驚いたようで、彼はきれいな緑色の目をぱちくりさせてわたしを見つめた。


「……どうして?」
「なんとなく」


 手にしていたシャーペンを机に置いて、彼はふっと笑った。その息の漏らし方さえ大人びていて、少しだけ、どきりとした。


「説明しにくいところにあるんだ。なんなら今日、うちに来るかい?」


 普段なら、男の子のおうちに遊びに行くなんて選択肢にすらないのに、なぜだか基山くんのおうちなら「アリ」のような気がした。基山くんは普通の、わたしの周りにいる男の子とは違う。笑い方と雰囲気しか知らないけれど、なぜだろうか、そう確信していた。





 放課後になって、わたしは基山くんのあとに付いていった。隣に並んで歩くのも変な気がして、基山くんの後姿を見つめながらおしゃべりした。


「基山くんって兄弟いるの?」
「いるよ」
「ふうん。何人?」
「たくさん」


 どうして人数を教えてくれないんだろう、と、不思議に思ったけど、訊かなかった。なんだか基山くんの背中が、訊いて欲しくなさそうに見えたのだ。口を噤んで黙って歩いていると、基山くんが足を止めた。


「ここだよ」


 あ、わたしのばか、とまず思った。普通ならあのお店の近くなんだとか、小学校がどこどこだったからあの辺だよとか、そういう答えが返ってきたはずである。はっきりと答えなかったというのはつまり、こういうことだったのだ。お日さま園、という字を見て、子供達が遊んでいる声を聞いて、泣きそうになった。基山くんにしてみればいい迷惑だろうに、彼は嫌な顔ひとつせずに、真摯にわたしの質問に答えてくれた。悪く言えばクソ真面目というか、要領が悪いというか。


「あッ、ヒロト兄ちゃんが彼女連れてきた!」
「彼女じゃないよ、友達」
「うそつき!中学生になったら女の子の友達なんて家に連れて来ないって晴矢兄ちゃん言ってた!」


 晴矢って、あの晴矢だろうか。彼もそうなのか。基山くんが振り返って、「風介も、俺の兄弟だよ」と言ったので、わたしは自分の考えのなさに呆れた。他人の事情に深く首を突っ込むとろくなことはない。自分ももやもやするし相手も傷つける。どうしてこの性格はいつまでたっても治らないのだろうか。立ち尽くすわたしに、基山くんは言った。


「気に病むことはないよ。こうして綿貫さんみたいに関わってくれたほうが、いそ清々しい」


 そうして笑う彼はわたしよりもずっと大人びていて、悲しくなった。彼にはしあわせになってほしいと、恋人どころか惚れてすらいないのに、強く願った。






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