彼のきれいな顔を目が勝手に追う、澄んだ声を耳が探す。どこぞの漫画にも表現されていたように、これらはわたしの理性や自重でどうにかできることではない、わたし自身が、勝手に反応してしまうのだ。これだから面倒だとも言えよう、しかし恋愛沙汰というのは傍から見ている分には非常にややこしいが実際自分がそこに落ちてしまうとそうとも思えない、恋する乙女となる自分に酔っている部分がないとも言い切れないけれど、ごちゃごちゃ悩んだって結局たどり着くのは「惚れたんだから仕方ない」のひとつであるのでもう考えないことにした。
「いたい!」
椅子に座っていただけなのに彼に蹴られた。ひどい話である。彼曰く「リアクションがひな壇芸人のようで面白い」のだそうで。構ってもらえるのならそれはそれでいいと思える自分に引いた。マゾ開発されてやがる。
「おめーがとろくさいのが悪いんでィ。他の奴らならとっくに逃げてまさ」 「普通はこんなことしないよね女の子に!」 「普通じゃねえ女の子に言われたかねーや」
くっそう、言い返せない。彼の靴のせいで汚れたスカートを軽く払って頬杖をついた。相変わらずの意地悪っぷりである、これが同じ程度の愛情表現ならどれほどいいだろう。しかし今更そんなことをされても気色悪いだけである。彼に惚れたせいで、わたしは普通の女の子でなくなってしまったのだ。他人には到底理解されないような点で喜びを感じてしまうのだ。深くは考えないが。
「綿貫」
デコピンとともに名前を呼ばれる。びし、と、結構痛そうな音がした。というか痛かった。もう、と呟いて彼の顔を見る。真顔だった。
「ノート貸せ」 「ま、またですか・・・!なんで出席したのに寝るかな!意味ないじゃん!」 「いいじゃねーかおめーのノート見やすくて便利なんでィ」
便利って言われた。純粋に嬉しい。これはきっと一般的な感情である。仕方ないなあ、だなんてもったいぶるように言ったって、どうせ貸さないという選択肢はないのだけど。よく殴られるし叩かれるし蹴られるし罵られるけれど、彼がわたしを「使える」と思ってくれるならそれでいいような気がしてくるのだ。末期である。
「沖田はわたしのことなんだと思ってるの」
ぽろっと常日頃抱いている疑問がこぼれた。友人、だとか、そんななまぬるい答えなど期待するだけ無駄だろう。彼は間髪入れずに答える。
「オモチャ」 「ですよね」
別にそれが不快でないんだから、わたし、基、恋する乙女は恐ろしい。
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