平介の見る世界はいったいどんな色なのだろう。クサいかもしれないが、ストイックと言っても過言ではないほどの彼の性格は、時にわたしに寂しさを感じさせるのだった。わたしと彼の感覚が必ずしも一致するとは限らないだなんて、そんなことは分かりきっている。そこを差し引いたって、彼のドライっぷりには感心せざるをえない。いっそすがすがしい。わたしだってそこそこドライだが、彼と並ぶとわたしの数少ない湿った部分が露呈されるのである。


「平介は背が高いね」
「そお?」


 しかしながら彼と過ごす沈黙の心地よさはいい。会話を長引かせようという気遣いもしないが、会話を続けねばという強迫観念のような気遣いをわたしから自然にうばってくれる。こんなにゆるやかでおだやかな強奪だったら、いくらでもしてくれて構わない。


「でも、こうしたらいい感じ」


 言いながら、平介が椅子に座った。放課後の、じじ先生につかまった佐藤くんと鈴木くんを待っている教室で、わたしと彼と、ふたりきり。それなのにこのおだやかな空気というのは、喜ぶべきか、怒るべきか。でもhave to で行動するのはつまらないと思っているので、もう考えないことにした。わたしは立ったまま、彼のつむじを見下ろしている。やわらかい髪が指先に気持ちいい。同じように気持ちよさげに目を細める彼のことを、どうしようもなく好きだと思った。まさか自分がここまで誰かに入れ込むなんて、思いもしなかった。そんな相手に出会えたなんて、幸せなのかもしれない。まだ高校生で、当然いつか離れるときが来るだろうけど、それでもいいと思える相手が、平介なのだ。


「・・・、・・・え、」


 わたしなりに感謝と親愛を表現しようとない頭をひねった結果、キスというかたちになった。前髪をかきあげて額にキスだなんて、本来なら男性が女性にするのがふさわしいのかもしれないが、どうせ唇を当てるだけの行為だ、ふさわしいもクソもあったものかと半ば乱暴な心持で、ちゅ、と。


「・・・青子、さん、」


 あからさまに焦ってますよという顔でわたしを見上げる平介がひどく滑稽である。しばらくじっと見ていたら、恥らうように両手で顔を覆いやがった。


「なんで顔隠すの」
「そ、そんなことするキャラでしたっけ、あなた」
「あなたって。キャラもなにも、したいと思っただけで」
「おそろしい子!」


 うぶな女の子のように赤くなった耳が覗く。かわいらしい。口には出さないけれど。平介、と名前を呼ぼうとして、その響きがどうにも甘ったるくなってしまいそうだったので、頭を撫でるだけにした。




title:ジャベリン






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