見た目については何とも言いがたい、恋は盲目という奴で、俺が青子のことを客観的な視点で見ることは不可能も同然だからである。しかし性格はお人好しで面倒見も良い、言ってしまえばいい妻いい母になりそうな感じだ。加えて家事全般も並以上に出来ると来ては、この若いのに独身で彼氏もないという事実に喜びと同時に若干の疑問を感じないことも無い。淑やかに微笑む青子を見ては、複雑な心境になっていたのだが、衝撃の事実を突きつけられて俺は今現在動揺している。


「・・・え、何それマジ?ねえマジなの?」


 こっくりと頷く青子の目元には、うっすら隈が浮かんでいる。可哀想に、きっと悩みに悩んでろくすっぽ眠れもしなかったんだろう。しかし俺が突きつけられた事実というのは、


「銀さんどうしよう、土方さんに女中として勧誘されたはいいけどわたしちょっと男性恐怖症なの」


 そりゃあ動揺もするだろう。まさか想いを寄せていた相手が男性恐怖症だなんて。だって今まで、普通に話してきたではないか。どういうことだ、俺が男として見られていないとでもいうのか。


「青子さあ、俺は平気なわけ?」


 率直に疑問をぶつけてみたところ、青子は少し目を伏せてぼそぼそと答えた。


「今みたいに、普通に話す分には、なんとも。でもたまに、銀さんも、こわくなる」


 血の気が引くとはまさしくこのことである。青子が俺を怖がっているということに対して、ではない、俺が気付かぬうちに青子を怖がらせていたということに、どうしようもない憤りと、無力感と、少しの寂しさを覚えたのだ。


「なんでだろう、父親に乱暴されたわけでもないのに、おとこのひとがたまに怒鳴ったときの声の太さだとか、わたしが持てないものを簡単に持ててしまうような力の強さだとか、見上げたときの威圧感だとか、こわい、の」


 青い顔をして、まったく、かわいそうに。いつものように撫でてやろうと伸ばした自らの手の大きさを見て、躊躇う。この手がまた、青子に恐怖を与えたりはしないか、と。


「今わたし、ファミレスでバイトをしているでしょう。早いところ職を見つけて両親を安心させたいから、土方さんの話はありがたかったけど、でも」


 あんな男所帯で仕事をしていける自信がないと、しかし奴の話を断ってしまうのも心が痛いと、青子は顔をゆがめた。
 なんで俺は男に生まれたのか。侍としてではなく人間として仲間を守りたいという思いは昔も今も変わらず持ち続けている。だから自分の性別を俺は少なからず誇らしく思っていた、俺が男であるということはつまり力があるということでもあり、それだけ仲間を守れるということでもある。しかしどうして、俺が今命に変えても守りたいと思える女を、俺は俺が男であるが故に守りきれない。いっそ万事屋に就職してしまえ、まあ給料はあんま出せねえけどな、と茶化すこともできない、俺が、「男」であるから。


「ごめんなさい、迷惑かけて、でもわたし、こんなこと銀さんにしか、言えなくて」


 しばらく泣いた後、青子は真っ赤な目をして俺に謝った。掻き立てられた庇護欲のやり場は、どこにもない。


「いーってことよ、万事屋なんて要するに何でも屋なんだから、いつでも泣きに来なさい、それで青子がすっきりするんなら、いつでもソファーは空けておくさ」


 意識して出した軽い声は、震えてはいなかっただろうか。俺の返事を受けて、青子は、涙の跡の残る頬で、笑って見せた。


「ねえ銀さん、もしもの話、わたしがおとこのひとを怖がらない人間だったら、銀さんと結婚したかったかも」


 ああ絶望。






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