※高校生 よいこの皆は真似しちゃだめだよ




よるがやってくる。


夜の空気は、どうしようもなくつめたいのだ。夏であってもどことなく他人行儀な、こころに痛みを与えるようなつめたさをしているのに、冬の夜なんて、もう、わたしのようないち女子高生には太刀打ちできない、なすすべのないつめたさなのである。しかしそんな暗くなり始めた空にひとつふたつばかりまたたく星は美しく、都会にもこんな、寄り添うような優しさがあればいいのにと思った。


「よ、綿貫、部活帰り?」


わたしに声をかけたのは不動くんだった。マフラーに帽子に手袋に、完璧な防寒である。チャリに手をかけて、なんともその姿が様になっているものだから、うっかりじろじろ見てしまった。


「ちょっと本屋に行こうと思って」
「まじか、俺も寄るんだけど、乗ってくか?」
「えっ」


まさか、そんな。
それは申し訳ないというか、そういう、二人乗りっていけないことじゃないのかな。ひとり悶々と考えるのだけれども、彼はそんなこと意に介さずわたしのスクバを奪って籠に乗せてしまうので、頷く以外の道はわたしになかった。





後ろに跨り、サドルのおしりのところを掴んでみた。不動くんはくすりと笑って、「本屋って何買うの」と尋ねた。わたしはあーとかうーとか、言葉にもならない音で答える。さらにそれを笑った不動くんに、勇気を出して訊いてみた。


「あの、ぎゅーってしてもいい、かな」
「いいぜ、別に」


予想に反して、返ってきた言葉は優しいものだった。茶化されるかと思って身構えていたので、拍子抜けしてしまう。お言葉にあまえて、そうっと腕を彼の腰に回した。・・・かたいなあ。女の子どうしだとお互いにぎゅっぎゅーとかしたりするので、人間というのはやわらかいのが普通だと思っていた。あ、そっか、不動くんはサッカーやってて鍛えてるんだろうし、そもそも、男の子だしなあ、と、その結論に至ったら、顔がなんだか熱くなった。


「本はね、色々読むよ、最近は重松清とかがすき、かなあ」


ばれたわけでもないのに顔の熱をごまかすようにして、さっきの質問を蒸し返す。「重松って、ああ、よく現代文で出てくるやつ」「そうそう」「あれ面白いよなー」「わたしたくさん持ってるよ、よかったら」「お、借りていいの?」火照った頬を撫でる風が心地いい。下り坂を勢いよく走っていって、それにあわせてながれていく景色、だんだんと黒く覆われていく空が、きれいだと思った。女の子のそれより広い背中に、そっと額を押し付けてみる。「幼児かお前は」またおかしそうにしている。わたしが笑われているのだけれど、それで不動くんが楽しいのなら、笑われるのもいいかもしれない、だなんて、おかしいだろうか。




――――――

title:星葬






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