「山崎さんスマッシュってどうやるんですか」


またほら、こうして俺のところに来るから、沖田隊長や副長に叱られるんだぞ。そう咎めようにも、俺だって彼女の襲来を待ち望んでいたわけだから、邪険には扱えなくて困る。女性なのに隊士であるからには、彼女の腕は相当なはずだ。しかし監察である俺は、その力量をお目にかかったことが無い。普段からふにゃふにゃしていて俺にミントンのやり方を聞きに来る彼女が刀を扱えるなんて、ちょっと考えたくないけれど。


「肩の角度と、勢いかなあ。青子ちゃんは力の入れ方がうまいからすぐできるようになると思うよ」
「まじすか」


嬉しそうにラケットを振る彼女の愛くるしいこと。ひゅん、ひゅん、と風を切る音は、とても初心者のそれとは思えないほどに鋭かった。


「山崎さん、今度また、ラリーしましょうよ」
「うん、今度、ね」


空には薄く雲がかかっていて、重く冷たい印象を受けた。ただでさえ寒いのだから、空ぐらい晴れてくれたっていいものを、と心中でどうしようもない文句を垂れる。青子ちゃんの吐く息の白さだとか、自分の指の冷たく強張った感覚だとか、自分の生まれた季節だけれども、冬はどうにも好きになれない。どうせなら春先とか、麗らかな、柔らかい季節がよかったなあ、なんて、まあ、本当にどうしようもないし、どうでもいいんだけどね。


「ね、山崎さん、今からちょっと、どうでもいいお話していいですか」
「・・・どうぞ」


心を読まれたのかと思った。どうでもいいという言葉が、彼女の口から紡がれるだけで、隣に置いておきたくなるような温かさを孕むのはなぜだろうか。


「わたし、明後日誕生日なんです」
「えっ」


これはほんとに、心の底から、えっ、と思った。そのまま口に出してしまった。全然どうでもよくないじゃないか、明日からちょうど仕事が入っているから買い物にも行けない。いったいどうしたら。


「だからね、山崎さん」


少しだけ赤くなった鼻をして、青子ちゃんが俺をじいっと見つめた。何を要求されるのか、と、俺も緊張して耳を傾ける。


「次のお仕事、怪我しないで帰ってきてください」


拍子抜けもいいところだ。財布と相談しなきゃとか色々考えを巡らせていたところに、またそんな温かいお願いをされては、俺の気持ちが安定しない。もしかしたら、なんて、淡い期待を抱いてしまう。


「それがわたしへのプレゼント、ってことで。実行できなかったらハーゲンダッシュおごってくださいよ」


ただでさえ明日の無事なんて祈れないこのご時世に、こんな職についていてはより無常を意識させられる。それを誰よりも知っている青子ちゃんのはずなのに、こんなお願いをするなんて、らしくないじゃないか。いやそれとも、だからこそ、なのか。俺に残された選択肢はただひとつ、約束できないお願いを、受け取って大切にしまっておくことだけである。






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -