しかし馬鹿な奴である。俺の隣でにこにこと笑うこいつは、誰にでも懐くというか、疑うことを知らないというか、素直すぎるというか。とにかく「馬鹿」の要素を挙げればきりがない。馬鹿なので俺の性格の悪さに、気付きもしない。
「お前ほんとにうぜえ」 「うぜえと思ってるくせに追い払わないんだからね、沖田くんも変な人」
いやお前ほど変な人もいねえだろうよ、と言い返す気力も、こいつのふにゃふにゃした笑顔に吸い取られてしまう。クラス替えしてからすぐに決めた委員会の割り振りで、俺は綿貫と同じ風紀委員になってしまった。風紀には近藤さんや土方あんちきしょーやザキも居るわけだが、なぜだか綿貫は俺に構う。
「ねえねえ、お昼いっしょに食べてもいい?」 「なんででィ。チャイナはどうした」 「神楽ちゃんはもう購買に行ってしまいました。そしてもう帰っては来ないと思われます。なぜならお兄さんと決闘だとか言っているのが聞こえたからです」 「お兄さん、ねぇ・・・」
あいつもまた、女のくせに変な奴だ。血の気多すぎだろ。血液溢れ出すぎてスプラッタ同然だろ。ちなみに綿貫からはマイナスイオンが溢れ出すぎてて土方コノヤローにちょっかい出しに行く気も削がれる。
「山崎くんはさっき先生のとこに行ったんだよね、確か。土方くんと近藤くんは?」 「委員長会議に行きやした」 「へえー、そっかあ、委員長さんと副委員長さんだもんねぇ、忙しいなぁ」
ゆるい、ゆるすぎる、俺様の毒舌もといSっぷりが出てくる隙すらねえ。俺様だなんて柄にも無い言葉だって頭に浮かべてみたけれど、綿貫のしまりの無い笑顔の前にはすべてしぼんで消えてしまった、どうしようもなくて、俺もただ笑ってみる。
「わたしの今日のお弁当には、玉子焼きが入っているのです」 「そうかィ、おめえ、卵好きか」 「うん、だいすき。お母さんの玉子焼きはとってもおいしいのです」 「それはよかった」 「そんなおいしい卵を、沖田くんにも恵んであげよう!」
小さい弁当用の箸が、俺のパンの袋の上に黄色を置いた。少し焦げ目がついていてうまそうなそれは、綿貫の家の、所謂おふくろの味、らしい。食ってみると、成るほど綿貫が熱くなるのも頷ける、けど限度ってモンがある。卵について熱く語る綿貫を、鬱陶しいとは思いつつも、嫌だと感じない俺は一体どうしたのか。
「わたしの卵に対する愛はすごいんだよ!坂東なんて目じゃないんだよ!ゆでたまごどころか温泉たまごまで愛してるんだから!」 「はいはいうるせえからこれ食って黙っとけ」
卵のお礼、とは言わない、いや、言えない。俺のパンの、口をつけていない方のはしっこをちぎって、綿貫の弁当の蓋に置いた。綿貫はその欠片を持ち、しげしげと眺める。・・・俺がこんなことする柄じゃねえってのは重々承知だが、そこまでされるとなんだか哀しくなってくらァ。
「お、沖田くん・・・」 「何でィ。珍しいってんなら返してもらいまさ」 「違う、あの、ちゃんとあんこ入ってて感動、しました・・・」
パンをかじりながら嬉しそうに言う綿貫を見つめた。なんだこいつ。変な奴。目の付け所がエキセントリックすぎんだろ。
だなんて、ほんとは、優しさに気付いてもらえたのが、嬉しかったり、な。
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