「旅行、ですか」


 白澤さんと行った、ということは伏せて、鬼灯様にお土産を渡した。先日気まずい別れ方をした茶屋でのこと。あの態度は今振り返ると反省すべきものだと思ったけど、鬼灯様に非がない訳ではない。私が勝手に怒ったのとは違う。鬼灯様が、私のアウトな地雷を踏んだのだ。今後それについては触れないでくださいましね、という意味もこめて、この茶屋へお誘いしたのだ。


「確か甘いものお好きでしたよね。お気に召しませんでしたらごめんなさい」
「いえいえ、ありがとうございます」


 まんじゅうのつまった箱を受け取ると、鬼灯様はそのかどっこをしきりになでた。注文したお団子ののっていた皿はもう既に空になっているし、湯のみのお茶にはさっき口をつけたばかりだ。時間をもてあまして、私もなんとなく髪をいじる。


「あの」
「はあ」
「先日の件ですが。貴女を傷つけようという気持ちは一切ありません」


 きっぱりと言い切った。勢いにおされてそのままうなずく。


「ただ、貴女の持つ事務処理能力が惜しい。あそこで働かせておくにはもったいない。と、思ったのですが、余計なお世話だったようですね」
「事務処理って。むかあし、ちょっとだけ、そういうバイトしてただけで」
「申し訳ありませんでした」


 ぺこ、と頭を下げられて、ぎょっとした。あわてて肩をつかんで顔を上げさせる。この人がこんなことをするなんて思っても見なかった。


「や、やめてください鬼灯様、私こそあんな態度をとってしまってごめんなさい」
「ではアレはチャラということで」
「・・・・・・え?」
「いいんですよね」
「えええっ」


 心なしかその口元はかすかに笑っているように見えた。なんということだ。一枚も二枚も上手だった。鬼灯様には口で勝てそうにない。



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