「さむい!」
「そっか、さこちゃん、八大出身八大育ちだもんね」


 空が高くてきれいだ。天国からおりてきた場所より、ビルもずいぶん減って、景色も少し田舎っぽくて、いい。電車を降りてバスを待つ間、死ぬほど寒いのが唯一残念だ。
 白澤さんもおっしゃったように、私は実は八大の出身で、しかも鬼である。父は獄卒として働き、母は専業主婦をやっている。そのふたりの間に生まれた私がなぜ天国の、しかも白澤さんのお店でバイトをできるのかというと、両親が私の夢に対して理解を示してくれたからである。鬼イコール獄卒のイメージが強いが、それだけでは鬼の世界が回らない。獄卒といえばなんとなくあこがれの職業だけど、それ以外にももちろん仕事はたくさんあるのだ。こうして天国で働くのも、周囲の理解と協力があれば不可能ではない。
 という語りはここまでにして、この旅行、である。
 寒い寒いと震える私に白澤さんがマフラーを巻いてくれた。元はといえば日本の現世の「四季」についての知識が浅かった私が悪い。返そうとマフラーに手をかけたら、白澤さんがにやっと笑った。


「それ、僕いらないから、いいよ」
「え、寒くないんですか、なんで持ってきたんですか。かさ張るじゃないですか」
「さこちゃんが寒がるだろうと思って」


 マフラーを握ったまま、口をつぐんだ。なんということだ、私の無知まで計算済みとは。



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