愛されているのだろう。わかっている。わかっている。わたしが落とした涙で隊服の色が濃くなった。血がたくさん、たくさん、ああ、こんなのって、ない。


「なまえ。」


 悩みなんて知らないような、軽くてどこかへ飛んでいってしまいそうな声が、わたしを呼ぶ。振り向かずに、両手で顔を覆った。泣き止もうとは思わないが、泣いているのを見られたくはない。


「なんで泣いてるのさ。」


 ひょこり、気配を感じて、彼はきっとわたしの顔を覗き込んでいるのだろうと思った。わかってるよ。愛されてる、それこそ、わたしには勿体無いほどに濃くて純粋な愛が、この両手に余って溢れてしまいそうなほどに、与えられている。


「なまえ。」


 男の人のものであるとはっきり判る、たくましい腕がわたしの肩を抱いた。普段の彼からは想像も出来ない、優しい手つきだった。しかしこの腕は、わたしの仲間を、上司を、部下を、恋人を、無慈悲に殺していったのだと思い出して、もがいた。


「ねえ、もう俺となまえだけだよ。なまえを地球に縛り付けるものはないんだよ。だから一緒に来てよ。言ったじゃないか、命と同じくらいに大切な事があるからダメなんだって。もうなくなったじゃないか、俺が消したじゃないか、どうして笑ってくれないの。」


 ぱりぱり。乾いた血でひどいことになっているわたしの髪を、彼の指がゆっくりなでる。そのてのひらに付いているのは、紛れもない、わたしの大切なひとたちの血。


 なんてこった、こんなときでも朝日はいつもどおりに温かい。



title:東の僕とサーカス




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