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黒尾先輩。どうやらバレー部のキャプテンらしい。それでもって、わたしと同じクラスの孤爪くんの幼馴染らしい。いいなあ幼馴染、あこがれる。と孤爪くんに言ってみたところ、「たぶん、みょうじさんがあこがれるような感じの関係じゃないから、俺たち」と言われてしまった。
黒尾先輩はかっこいい。クールっぽい感じの見た目なのに、実はノリのいい性格だというギャップも加わって、たいへんおモテになる。わたしの友達にもたくさん、黒尾先輩のファンがいる。わたしはというと、どっちかといえば夜久先輩のほうが好みだ。何考えてるのかわかんない黒尾先輩と、お母さんみたいな、優しげな目の夜久先輩。天秤にかけたら失礼かもわからないけれど、わたしの天秤は、夜久先輩のほうに傾く。
のだけども。
「お前がなまえか」
「……そうです、けど」
一体何センチあるのか、黒尾先輩はとっても大きい。しかもゴツい。そんな黒尾先輩が、わたしをじわじわと壁際に追い詰める。こわくって、視線を斜め下にずらした。
「研磨がよくお前のことを話すよ」
「な、なんて」
「クロのことあんまり好きじゃないみたい、って」
ばっと勢いよく顔をあげたら、黒尾先輩がにやあっと口角をあげた。その細められた瞳にはきっと、ぽかんと口を開けた間抜け顔がうつっていることだろう。腰を折ってわたしに顔を近付けて、静かな声でささやく。
「研磨が好きなのか」
「ち、がいます」
「夜久か」
「あの、誤解ですっ」
「俺はアンタが好きなんだけど」
口がさらにあいて、顎がはずれるかと思った。あわてて口を閉じて、それでも驚きはごまかせなくて、やっぱり目をそらす。
「オイこっち見ろ」
「む、無理です無理無理っ」
黒尾先輩のおおきな手が、わたしのあごをつかんで無理やり目を合わせさせる。つり気味の目が、つよくまっすぐ、わたしを見ている。
「なあ」
あ、もうだめだ、と思った。心臓のどきどきに呑まれて、しんでしまいそう。わたしはきっとこのまま、この人に落とされるのだろう。完全な負け戦だったのだ、最初から。きっと、この人に、見つかったときから。