月島くんはハイスペックだ。顔もよし頭もよし身長もよし爽やかな笑顔がトレードマークの好青年。周りの女の子たちはみんなそう言う。だまされてるよ、みんな。わたしは真実を言うことができない。なぜなら月島がこわいから。月島はみんなが思っているような素敵な男の子じゃない。いじわるでねちっこい、イヤミな奴だ。


「また山口に付きまとってるの。やめなよ山口が迷惑がってるデショ」
「そ、そんなことないもん! ねっ忠くん迷惑じゃないよね、ねっ」


 忠くんの学ランにすがりついて半べそかけば、忠くんは眉をハの字にして「うーん、迷惑じゃないよ、迷惑じゃないけど……」と言葉をにごした。ショックを受けた、という体で、ぱっと手を離して、一歩二歩とあとずさる。


「た、ただしくん……! わたし、わたし、どうしたら……!」
「君がタダシクン離れしたらいいだけだろ。いとこだかなんだか知らないけど目に余る甘えっぷりだよ」
「そんな、忠くん、せっかく高校が一緒でわたし、嬉しかったのに、それはわたしだけだって言うの……」
「そっそんなことない、そんなことないよなまえちゃん、そんなことないんだけど、」
「だけどなによう! 迷惑なら迷惑だって言えばいいじゃないのよう!」


 わっと泣き真似をして、困り果てる忠くんを指の隙間から観察する。むかしから忠くんはやさしい忠くんだ。わたしは小さい頃から忠くんが大好きだった。けれどもおうちが遠くて、親戚で集まるときぐらいしか会えなかったのだ。それが、中学の最後になって、親の仕事の都合でお引越しすることが決まって。高校は向こうのに行かなきゃだなあ、すまんなあとお父さんは言っていたけれど、わたしも最初はへこんでいたけれど、その高校に、忠くんも行くのだと知って、わたしは文字通り両手をあげて喜んだのだ。忠くんといっしょだー! わーい! ご飯とかも一緒に食べられるんだー! わーい! というこのわたしのアゲアゲだったテンションをさげぽよにしてくれやがったのが、この月島である。わたしが忠くんにひっついて歩こうとするのを見つけては、顔をしかめて「しっし」の手をする。きいい、月島憎し!


「これで付き合ってないとか詐欺でしょほんとに」
「ツッキーなまえちゃんはほんとに、かわいい妹って感じなんだ信じてツッキー!」


 月島がはあーっとながーいため息をついた。かちんときて月島のおなかにグーパンを入れようとした。あっさり止められた。ぐぐうっと拳を押し返されて、悔しさで禿げるかと思った。


「月島め、ちょーっと忠くんと学校一緒だったからって、偉そうにしやがってー」
「ちょっとっていうかだいぶだけどね。小学校からだもんね僕らの付き合い」
「むかつくー! いいもんわたしは忠くんと血がつながってるんだもんね! それだけは切っても切れないんだもんね! ハハーンざまーみろ、お前は一生忠くんと血縁関係にはなれんのだー!」


「あるよ、方法。」


 せいぜい来世に期待でもしとけー! ときめ台詞を言おうとしたところに、月島が言葉を被せてきた。冗談とは思えないほど、まじめくさった顔をしていたので、つきつけていた人差し指をとりあえずしまうことにした。腰に両手を当てて、月島の次の言葉を待つ。しゃべりだす前に、一瞬だけ、口の端が上がったような、気がした。




「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -