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「財前いうたらお医者さんみたいやなあ」
「意味わかりませんわ」
子供のように笑うみょうじさんの額に汗が輝く、今は、夏休みである。かんかんと照りつける日差しのもとでみょうじさんがなぜか制服を着て歩いているのを見かけたので声をかけ、一緒に日陰でだべっている。どうして学校にいるんだ。というかこの人は三年生で受験生のはずなのにこんな暇そうな夏休みでいいんだろうか。俺が口を出していいことではないだろうが。
「財前くんは不良やねえ」
「何がすか」
「ピアスしとるもん」
そう言って、白く小さな手が、俺の耳にさわる。表情は変えないように全力を尽くしたが、内心ではどっきどきだ。かっこわる、俺。ばれないように眉をひそめながら、その指が離れるのを待った。いや、やっぱ、離れてほしくない、かも。何やねん俺。
「テニスかあ、ええなあ、青春やなあ」
「なまえさんは青春しとらんのですか」
「うーん」
あ、離れた。やっぱちょっと寂しい。なまえさんの指のぬくもりを思い出しながら、自分でも耳に触る。女の子の指やったなあ。ようわからんけど。
「してるかも」
「は?」
「青春」
にこっと笑って、なまえさんが俺の頬を両手で包んだ。とっさのことに抵抗もできず、あ、でもされることが分かってても抵抗なんてしなかったかもしれない、とりあえず、されるがままに、唇を奪われた。ふっくらしてはいたけれど、思っていたよりも冷たかった。
「それじゃー補修いってくるね!」
顔をはなすやいなや立ち上がって駆け出したなまえさんの、自由人ぶりといったら。「やっぱ敵わんなあ」ぼやきながら片手で顔を覆った。手汗がけっこうやばくて、火照った頬は熱いままだった。