一子と二子と、その更に隣になまえが、金魚草の前でおぎゃあおぎゃあと鳴き真似をしている。微笑ましい限りだ。鬼灯は他人には分からないほどかすかに頬を緩ませた。


「将来は三人とも、鳴き真似コンテストに出ていただかなければいけませんね」


 ちょうど顔を出していた茄子と唐瓜が、幼子三人の鳴き喚く異様な光景に釘付けになっている。茄子は「もしかして意味分かってるかもしんないね」と頷き、唐瓜は「え、英才教育の結果かな……」と鬼灯を恐る恐る見上げた。


「茄子ちゃん抱っこー」


 二人に気付いたなまえが、ばっと立ち上がって駆け出す。飛びついたが、茄子は受け止めきれずに後ろに倒れてしまった。


「こら、なまえ」


 鬼灯がなまえを両手で抱き上げた。片腕になまえをかかえ、空いた片手で茄子を起こす。


「すみません、なまえの中でハグブームが巻き起こっているようでして」
「茄子ちゃん、思ってたより硬かった」


 いけしゃあしゃあと、なまえが言う。ブームということは、もしかしてこの子、鬼灯様にも抱きついているのか。この方は子どもが嫌いではないようだし、もしかすると、でれでれになっていたりして。勝手に妄想を膨らませ、それぞれ表情を変える茄子と唐瓜。心なしか青褪めている唐瓜が、なまえにたずねた。


「硬いって言ってたけど、誰がちょうどいいの?」
「大王がわりとよかった」


 節子、それ脂肪や。脂肪の具合や。


「女の子の方がぜったいきもちいい。衆合に行きたい」
「ダメです、なまえにはまだ早い」


 むくれるなまえを、鬼灯が真剣に諭している。痴情のもつれが渦巻く地獄云々、まだ幼く無垢ななまえには云々。表情にこそ出ないが、鬼灯が如何になまえを大事にしているのかが分かる。


「あれ? でもなまえちゃんって、極楽満月に住んでたよね」


 そう、それなのだ。
 一子と二子と仲がよく、加えて鬼灯にも可愛がられているときた。ここまで条件がそろっていながら、なぜ極楽満月に住んでいるのか、なぜ閻魔殿に住んでいないのか。その疑問に、鬼灯がため息ながらに答えた。


「閻魔殿はいたずらのし甲斐がないんだそうです」
「大きいわりに、楽しいいたずらできない。骨折り損」


 鬼灯の腕の中でそう言うなまえに、重ねてため息をつく鬼灯。唐瓜は頬が引き攣って固まるのを感じた。俺、上手く笑えてるかな。


「皆、リアクションが薄い。怖がってくれない」
「そりゃあ、勤めてる者大体鬼ですし」
「つまんない」


 唇をとがらせて言う。幼女の行動ならば可愛いものだが、彼女は妖怪で、齢は三桁の超高齢だ。可愛い、可愛いんだけど、なんだかなあ……。唐瓜は「そりゃそーだよなあ、つまんないよなー」と同調する親友を尻目に、腕を組んだ。


「鬼灯様ぎゅー」
「!」


 なまえが腕の中で体を反転させ、鬼灯の首もとにすがりついた。あからさまではないにしろ、そこそこ分かりやすく鬼灯が動揺する。かたい表情のまま、手をしばらくうろうろさせて、そうっとなまえの背中を支えた。自分の怪力でなまえが苦しまないように最大限の配慮をしているのが分かる。


「かたい!」
「え」
「鬼灯様かたい! なにこれ!」


 腕を突っ張ってなまえが叫んだ。鬼灯がぴし、とかたまる。再び首に抱きつき、楽しそうに、さらにその小さな手でばしばしと鬼灯の背をたたいている。


「かたい、かたい」


 今にも歌い出しそうなその様子に、鬼灯は眉間の皺を増やした。唐瓜は考える。ハグブームといったって、この子の交友関係を考えれば、これまで抱きついていたのは一子ちゃんや二子ちゃんだろう。それでいきなり、筋骨隆々の鬼神に抱きついたら、そりゃあ、ああもなるだろう。微妙な表情をしている自分の上司を見て、唐瓜の脳裏をひとつの疑いがかすめた。


 俺の上司、もしかしてロリコンじゃねえの。




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