極楽満月に、妖怪が住み着いた。

「なまえちゃん、蛍光灯壊したでしょ。すっごいチカチカするんだけど」
「蛍光灯っていうか、配線いじった」
「悪質!」

 家鳴りである。
 鬼灯のところで面倒を見られている座敷童子たちと同じような経緯でこっち側にやってきた。天国と地獄を行ったりきたりするものの、なまえ曰く「閻魔殿はでっかいわりに、いたずらのし甲斐がない」のだそうで、ここに居座っている。

「目が痛くなるから直してよ」
「いくら積んでくれるの」
「やらしい!」

 ちゃっかりした妖怪である。

「白澤様、一子と二子が、遊びに来たいって」
「それ十中八九あのクソ鬼神もついてくるだろ。ダメダメそんなの」
「ケチー!!」
「うわっ目がチカチカする! 失明する! いいから、つれてきてもいいから、配線それ以上壊さないでー!」

 桃太郎は、ふたりのじゃれる様子を見ながら頭を抱えた。来客があるときにいたずらをしないだけ、マシだと言えるだろう。それでも夜中に建物をギシギシ鳴らされたり椅子の足の一本だけ長さを変えられてガタガタさせられたり、地味にイラッとするいたずらを延々とされるのも、堪える。

「桃太郎だっこー」

 気付くとなまえが目の前で両腕を広げており、ぎょっとした。実際の年齢は三桁だろうが、外見としての年齢は、現世の人間でいう小学生くらいの姿。しょうがないな、と思いつつも、腕に抱えていた薬の材料たちを机に置こうとすると、白澤が声を掛けた。

「ほらほらなまえちゃんこっちにおいで。僕が抱っこしてあげる」

 床にあぐらをかいて腿をぺちぺちと叩く白澤。それを見て一瞬躊躇い、なまえは白澤の膝の上に乗った。

「はい、ぎゅー」
「ぎゅー」

 じゃれているふたりを見ると、ロリコンの性犯罪者とあどけない少女、というよりも、父と娘のようにも見える。白澤がなまえを可愛がる感情の中に、不純なものがないのが見て取れる。

「白澤様ごつごつする」
「そりゃ、男だもの。女の子のように気持ちよくはないだろうさ」
「ほねほねする」
「うーん、太ったほうがいいのかな」

 苦笑する白澤に、桃太郎も笑みをこぼした。本当のおやこのようだ。白澤様も、こんなふうに慈しむことができるのか……。日ごろの行動が行動なだけに、桃太郎はいたく感動していたのだ。

「鬼灯様はほねほねしてなかった」
「……ん?」
「あれは、筋肉?」
「ちょっと待ってなまえいつ閻魔殿に行ったの、僕に内緒でいつの間に行ったの」
「いまのところ一位はお香ちゃん、二位は大王かな」

 なまえの両手を取って顔を引き攣らせる白澤だが、なまえは動じることなく「抱っこしてもらえたら、桃太郎は三位にランクインするね」などとのたまっている。
 やせようかな……。
 騒ぐ雇い主を横目に見ながら、桃太郎は真剣に悩んだのであった。




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