疲れた。
これは体力的な問題じゃなくてメンタル面だ。疲れた、眠い、いっそ逃げ出したい。こんなときはあいつと一緒に寝た方がいい
熱いくらいの体温と、少しぼさっとしたふわふわの毛並みに身を任せれば癒されるに違いないんだ。行こう、今すぐ。裏庭に

「マキ!! どっか行くのか?おれもいくっ」
「やることがあンだよ、来るんじゃねえ」
「ッ、そんなこと言うなよっ、おれたち友達だろ!?」
「…、いい加減にしねえと犯すぞ明(メイ)」
「!!!」

 自分はノンケだなんだと男に手をだす男を毛嫌いする明を脅すにはこの手が一番イイ。案の定口を噤んで納得が行かないと反抗の目線を送ってくる。
こいつのカワイイところはこんな風に俺に盾突く威勢の良さだ。逆らい、抵抗し、コトバを巧みに操れば眼鏡と髪でそんなに見えねえ顔を密かに染める、そこがクる。が、今はこいつの甲高い声は癪に触る。聴きたいのは、あの蕩けるような、甘えてくるこわね。あいつは耳がいいから明を連れて行ったら逃げ出し兼ねないし、何より癒しのためには二人きりじゃあないと意味を成さない
明の口を閉ざした所為か睨んでくる男に後は任せて、目的の場所へ足を運んだ



・ ・ ・ ・



 裏庭は心地好い。日の光りは届くが木陰の割合が高いここは美しいと囃されるような花がそれほど咲いていないからか、人気が無く崇拝される俺が唯一心を許せる場所。―さて、あいつは何処にいる。俺が求めてやまない小さなあいつは。ついでに寝る場所も確保しようときょろりと探りを入れていれば、名を呼ばずともソレは現れ足首あたりにすりついた。

「クロ」
「なぁん、」

 久しぶりに見たこいつは相変わらずで、黄色い眼を細めてぼさぼさしているが柔らかな毛並みのしっぽを揺らす。抱き上げれば「みゃ〜ん…」と心なしか困ったような声をし、俺の手の平を温めた

「疲れたんだ。お前と会うときはいつもこういうときだから、分かってくれるだろ?」
「にゃっ!」
「はは、サンキュ。あっちが良さそうだからそこに行くか。」

 こいつはどうやら、人の言葉を理解しているらしく問い掛ければ鳴いてみせる。どこぞの猫バカみたいに喋った喋ったと騒ぐようなものだろうが、嬉しく思う。大人しく俺に抱かれゴロゴロ喉を震わせているクロは可愛らしく、俺が求めていた癒しを早くも与えてくれた

「下りても良いぞ」
「みゃおん」

大きな樹の幹に飛び移り、俺はその下の芝生に寝そべる。クロ、そこで丸くなられたら困る。こっちに来い、という意味合いで腕を広げれば賢いこいつはとん、と身軽に着地して欠伸を漏らしながら俺の唇を舐めた。やすりと称される猫の舌だが、こいつからのキスだ、甘んじて受け入れる

「ん、寝るか、クロ」
「なぁん」

 てしてし。オノマトぺで表すならこうか?
ぷにぷにした肉球で俺の頭を撫でるかのように触れて、爪を立てることなく髪を掻き分けるクロはふと人間なんじゃないかと勘繰ってしまう。しかしいくら確認してもふわふわな毛むくじゃら、正真正銘の猫でしかないがこんな俺を甘やかしてくれるのはクロぐらいで、どうしても心が安らぐ。こんな小さな存在に絶対の信頼を寄せるのはどうかとも脳裏には浮かぶが、如何せんこいつは眠りに導くのがうまい。そのうち浮かんでいた思考なんてどうでもよくなって、麗らかな日差しや木漏れ日、それから絶対のぬくもりにまどろむ

「ぅ、ん…」

 ふわり、こいつの頭を撫でて、出来ればもう少し髪を梳いていてくれたらと、胸に小さな期待を乗せた


霞む視界の中、『おやすみ』という言葉が聞こえた気がして意識を飛ばす

140223
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