ガチャ、バタン。
「…はぁー…疲れた」
抱いて欲しいと悲願するような瞳の誘い水に流されるよう行為に及び、気付くと深夜を過ぎていた。ここは俺の部屋の前じゃない。気絶するように寝てしまった相手の部屋だ。この学園に来て早一年と半年、無駄に培ったテクニックと経験は本当にいらないもので襲い掛かってくるストレスに目眩がした
なるべく慎重に廊下を歩く。携帯が表示したのは三時五十分と中途半端な数値に苦笑した
ロビーは既にもぬけの殻で電気すらついていない。なんだか最近は精神的に滅入ってる。五月病を引きずっちゃってんのかなぁ。
ポーンと軽く高い合図とともにエレベーターの入り口が開いて乗り込もうとしたときだ。
「!? ちょ、…会長様じゃないですか」
「ふん、どうした。不服か?」
きつく腕を掴まえられて逃げ出せずそのままエレベーターは閉まったが同じ状況下のなかでいつまでたっても次のステップに踏み出せない。適当に羽織られた上着の下からちらつくのは鎖骨と露わにされた肌。シャツすら着ずに追いかけてきたとでも言いたいのだろうか。現実逃避にも近い思考を遮るように低い声音が呟く
「…誰とヤった」
「え、」
「わざわざこんなとこまで来てたんだ、いままで誰かといたんだろ?」
見え隠れしている意味を捉えられないほど俺は鈍感じゃない。平然を装ってはいるが孕んでいる静かな嫉妬を見つけた
「もしそうだとしてもあんたには関係ないでしょ」
「はっ、たった1ヶ月会わなかっただけで拗ねん、…っな」
「俺からしたら拗ねてるのはそっち。そんなに寂しかったんですかぁ」
こっちが呆れるほどの溜め息が漏れそうなほどの言い訳に掴かまれていた手首を引っ張り抱きしめてやったがぜんぶ耳にしてしまった。…うん?
「会長、やつれましたね」
「…当たり前だろ。学園内全ての書類すべて片付けてるんだからな」
「他の役員はどうしたんです」
「惚れた腫れたで転入生にてんてこ舞いだよ、こっちの迷惑考えろってんだ」
「はは、いっそのこと会長も転入生に惚れてみたら…ってそんなことしたら大変なことになっちゃいますねぇ」
ああ、そうだ。思い出した。記憶から抹消したい存在を思い出してしまった。俺も会長も疲れてしまうほどの人物を。いや、いかんいかん駄目だ完全に思い出すな。死ぬわ
「よい、しょっと」
「!?…おま、なにしてんだっ」
「こんなとこ見つかったらどうすんですか。恋人同士でもないってのに変なでっち上げは御免ですしー」
「……そうかよ」
ええ、そうですとも。窓の外は薄い明かりが照らし始めているし……下から持ち上げ所謂「お姫さま抱っこ」のスタイルを保って見覚えのある部屋まで運びながら早瀬を一瞥するとムスッとした表情で睨んできた為すぐに顔を逸らしたけどなんだか寝不足で吐き気が…うげぇ
ななめ45°必殺上目使い
(そんなのただの睨み付けだ)
title by:曖昧