* novel | ナノ
五喜(itsuki)×貴沙(kisa)

「あ、キサちゃん。お帰りー、勝った?」
「ちゃん付けすんな。……勝った。お前見てただろ」
「んふふー、まぁねえ。グラウンドであんなに励んでちゃ丸見えだよ」
「なんか言い方がむかつく」
「まぁまぁ、怒んなさんな」

 学内一恐れられている不良がのこのこ教室に帰ってこられたら誰でもざわつくだろう。真っ先に近寄った男は平凡という言葉がぴったりなものだからそれも加わり視線が追加されていくが二人はどうでもいいと言うように淡々と言葉を紡ぐ。
逆にこういった風景は初めてではないのだからいい加減慣れろよとすら二人は思った。ちょうどグラウンドが見える窓際の席が男の居場所で、貴沙は男の膝に腰掛けるなり紙パック入りのコーヒーを啜る

「それにしてもさぁ、蹴り入れられてたじゃん。ざまあ」
「黙れよお前」
「ぎゃははっ 怖い怖い。触らぬ神に祟り無しってねー」

 こめかみに血管を浮かばせた不良は先ほど自慢の拳を振りかざしたのが嘘のように手柔らかく男の耳元を強く引いた。いだいいだいと唸っているのに満足したのか鼻で嗤い挟んでいた指を離す。ふんわりとした茶髪の童顔な男がそこに割り込むと一気に二人の目線を奪った

「っあ、ね、ねえ、五喜くん…っ」
「んあ、おー山下ぁ? なにー」
「…お前、なんでこいつの名前呼んでんの?」
「ひっ ち、ちがくて。その、質問があって……」
「おいおい、かわいいチワワちゃん脅かせちゃだめだぜ」
「は、確かにびくびく震えてんな」
「いやだからお前が脅かせてんのー。ごめんね、山下。それで?質問はなぁに?」
「へっ!? えっと……ね」

 ぎらつく青い目を山下と呼ばれた男に向ければ怯えたところを逆手に取る貴沙を宥めるように言い放つ五喜は首を緩く傾げると思い出したかのように口を開く。その質問とやらを聞いた教室中が息を飲む

「ふ、二人って付き合ってるの?」

 そして、その疑問は間違いなくこの二人も耳にしたのだ。五喜は貴沙の腰に手を回しているし、貴沙は五喜の膝上に座っている。言われてみると確かに恋人同士にも捉えられるものだから他の生徒たちも気が気ではない、…のだが。二人の回答は正反対のものだった

「ふむ。キサちゃん、俺ら付き合ってたっけ」
「あー、知らね。フシダラな行為はしたことねえな」
「ちゅうはしたことあるけどね」
「好きだとかも言ったときあったか?」
「ないねえ。」
「じゃあ付き合ってないな」
「ん。ってことで山下、俺ら付き合ってねーわ」
「こ、答えてくれてありがとう…」

 いーえー。相変わらず間延びをした返事で済ませた五喜と貴沙はまた互いに顔を合わせくっちゃべる。その時折時折に見せつけるような甘い口付けを交わす二人がそんな関係ではないと誰が信じるか、ばっと反射的にあらぬ方向へ態度を背けたクラスメートたちの中にはいないらしい。

親友以上恋人未満
(んでも楽しそうだし付き合ってみる?)
(今とあんま変わんなくね?)
(かもねー)





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