* novel | ナノ
あー、あ"ー。あれマイクの調子が悪いですね。まあいいや、初めまして山田太郎と申します。いや嘘ですけども、…はい、本当の名前は狭間柊(はざまひいらぎ)と申します。なんとなく偉大な名前がちょっとだけコンプレックスの僕ですが、悩みを聞いてくださっても構わないでしょうか。
 僕には恋人がいまして、ええ、そりゃあもう偉大過ぎて仕事・学業・容姿・どれを引いても完璧な我らが生徒会長様なのですがどうして僕なんかと付き合ってくれているんでしょうね。まぁ悩みはそこでなく、最近彼が浮気をしているようで。あ、それは前からでした。しかも僕公認。彼は性欲が強い方で、僕は淡泊なので毎日毎日やってられるわけもなく親衛隊の子限定で許していたりします。親衛隊の子たちは可愛らしい容姿の方ばかりですので女性的なこともあり許容範囲内でした。僕は本来女の子が好きなので。さて、ここからが本題なのです。長ったらしくなりますがどうか、僕のカウンセラーになったつもりでお願いしますね!!

 それは今年の春です、この学園の周りの木々はすべて桜なのでちょっとした絶景ポイントです。学園中が桃色に染められていました。僕は一年から二年生に上級し、恋人は三年生になると同時に生徒会長へ昇格しましたが彼の親衛隊の子やほかの人たちに僕と会長が恋人同士だということを認めて貰いそれなりにのほほんとのんびりした毎日だったんです。それが崩れ落ちたのはいとも容易いことでした。夏が始まる前、ちょうど梅雨の時期ですね。すっかり桜は葉桜となってしまって残念な気持ちと体調不良で大変なことになっていたときに関係ないとでも言うような嵐が突如起こりました。嵐の名前は御堂美空(みどうみそら)。晴れてもないのに美しい空ということはどういうことでしょうね。 その日も大げさな雨が窓に打ちつけ、みんながだるさでへばっている教室にいつも同じ調子の担任が席につけーと声を掛ければいつもなら可愛い子たちがきゃあきゃあ言うけどそれもなかった。梅雨の力はすごい

「あー、転入生が来ている。…御堂、入ってこい」
「キョウヤッ、美空でいいって言ってんだろ!?」
「…御堂、一人の生徒を特別扱いすることは出来ねーんだ。学校が終わったらな。――それじゃあ自己紹介だ」

 学校終わったらいいのかよ。この時点で僕はうわぁ、と引いてしまったが入ってきた転入生とやらの容姿については指摘せずにおいた。だって今にも鳥が住み着いてしまいそうな頭に今どき珍しい瓶底メガネ、服装こそきっちりしているけどサイズが合ってないのか大きめでだるっとしている。これはふだんし、って属性の友達が発狂するかも知れない。僕は興味ないけど友達が何度も漫画を見せびらかしながら語ってくるから違和感が消えたのかも知れない。どうせ彼も中身は相当な美人なんでしょ? はいはい。頬杖つきながらぼんやりしていたら周りから聞こえる微かな罵倒とブーイング。ああ、王道万歳。どこからか友達と同じような囁きも耳にしたが無視しよう。担任の言葉にムスッとしていた転入生は自己紹介という単語にめくるめくほど簡単に表情を明るくし、こちらを向いた

「オレは御堂美空だ! お前らみたいに見た目で判断するやつが大っ嫌いだ、謝れば……」
(……わぁ、王道万歳)

 その転入生は当たり前のように薄くてお高い本と同じ言葉を口にしたのだ。友達が勝手に流したCDでの声とそっくりで、つい眉をしかめる。しかも一々エクスクラメーションマークを語尾にしていそうな声色は天気のせいで痛めているこめかみに響く。さいあく、と呟こうとしたときに後ろから背中をつつかれてそちらを見た

「ん? 一颯(いぶき)くん、どうかしました?」
「うん、なあ、あれなに」
「何ってそりゃあ……」

 王道転入生。
 おっと、口が滑りそうになってしまいました。失敬失敬。
爽やかなルックスをしている彼の名前は一颯くん。さっきまで寝ていたはずなんだけどやはり彼も雨で滅入っているので口数が少なくなっていたが、転入生に興味を持ったようだ

「…なんだろ、マリモ?」
「ぶはっ、そりゃねーよ。狭間はおもしろいな、なんか元気出た」
「それはなにより。でもマリモみたいでしょ」
「席は狭間の隣でいいな。狭間、手ぇ上げろ」
「はっ!? あー、はい。僕です、狭間です」

 唐突に後ろから聞こえた地獄のようなお告げに驚いたが担任に睨まれたため素直に応じる。これぞまさしく蛇に睨まれた蛙だ。顔を見合わせていた一颯くんが小さくご愁傷様、とだけ残して机に突っ伏す。地味に腕が当たっていて痛い

「前を向け。んじゃみそ、…御堂。狭間の隣に行け」
「おう! 名前呼んでくれてもいいんだぞ、無理すんなよなっ」
「……」

 やだなぁ。身体を戻し溜め息がこぼれそうなのを我慢していると携帯が鳴り、睨まれながら確認すると『王w道w転w入w生wwwどうしようおれ吐きそう』というなんたる意味不明な呪文が。え、ってかどこで観察してるの? 次に来たのは『柊は誑されんなよ、分かった!?』たる感嘆符と疑問符付き。僕にも好みぐらいあるし、なにより僕には会長という名の恋人がっ

「授業中に携帯いじったらダメなんだぞ。わかったんならそれ戻せよな!」
「ああ、…うん。そうだね」
「よしっ。オレは御堂美空、お前は?」
「あー、僕は山田太郎です」
「山田太郎? さっき狭間って…まぁいいや、宜しくな!」
「…うん、よろしくね」

 うおお、この子ちょっとおばかさんなのかな。良かった、マジで良かった。返信することなく机の中に仕舞い適当に挨拶して握手を交わす。…これはあれだ、巻き込まれちゃう系平凡の前兆な気がする。山田太郎と名ったときにツボったのか一颯くんが寝ながら震えているという面白いことに…それどころじゃない

「オレら今日から親友だよな!」

 父さん母さん、弟よ、そしてなによりも会長、僕に嵐の親友が出来ました。これが某有名なアイドルならサイン貰って母さんに送りつけたのに。
僕はもう何も出来ずにいた
 こんな感じだったんだけど、まだ僕だけなら良かったんだ。

ふだんし属性の友達が述べるには「美形キラー」な美空くんは僕との握手を終えたあと次は一颯くんに、それから次の日は風紀の人たち、生徒会の方たちとほだしていった。なによりも絶望的に感じられたのは会長が食堂で美空くんと大人のキスをかましたことだ。どんなに浮気しようが僕の前ですることはなかったのに…。ほら、今だってロビーから生徒会室に繋がる廊下が騒がしいことになっている。一般生の僕が易々とここを出入りしているのもあれだけど

「ハジメッ、なんでオレを置いてったんだよ!」
「あ? わりぃ。柊がいたから……」
「柊って、…たろー!?」
「はい、狭間柊と申します」
「お前ら同じクラスなのに名前も知らなかったのか」
「ちが、だってこいつ山田太郎って言ってたんだぜ!?」
「…山田太郎?」
「ふん、いけませんよ、美空。彼はウソツキですからね、近づいてはなりません」

 ふむ、言い掛かりは止していただきたいのですが事実ですから反論出来ません。それよりも会長はもしかして小走りに来てくださったんですか、やっぱり愛してます

「…それに彼はこのバ会長の恋人ですよ? 野蛮なんです」
「なっ、セフレなら止めておけよ!? しかもハジメの恋人はオレなんだからな!」
「大丈夫です、会長とは破局したので。美空くんから取ったりしません、大人気ない」
「柊…っ、俺はお前と別れた覚えはねーぞ!」
「おやまぁ、嫌です。お断りさせて頂きますよ、僕は。誰が人の口に舌突っ込んだ人とお付き合いしますか、願い下げです」
「あ、分かった。 たろーはオレに嫉妬してるんだな! でもそんなに言ったらオレはお前の親友じゃなくなるからな!!」
「元から僕は君と親友ではありませんのでご勝手にどうぞ」
「…まぁ、彼の言い分は尤もですがね」
 失礼ながら副会長はどちらの味方なんですか。あれか、中立タイプですか。それより確実な方が良いのですけどもね

「…会長、今でも僕はあなたを愛してます」
「っ、つ…」
「ほら、泣かないで。泣き虫なのには変わりないようで安心しました」
「ひい、らぎ…っ」
「ハジメ!?」
「ほら、バカップルは放って行きますよ」
「ハジメ、っ美月(みづき)!はーなーせーー!!」
「抱き心地抜群なのでお断りします、それでは」

 颯爽とした副会長は美空くんを抱っこして出ていってしまった。あの華奢な身体のどこに力があるんでしょう。
 じわりと涙で瞳を濡らす会長の眦に手を這わすと、擦りよってくる会長は可愛らしくてキスしたくなるけど、我慢。これはお仕置きだからね

「僕ね、嫉妬とストレスでおなか痛いんです。それに今のあなたは美空くんの恋人らしいですし、しばらく彼氏お休みしますから」
「やだ、だめだ。しかも恋人がどうのはあいつが勝手に!」
「メールを返さないのも電話取らないのもディープキスをしたのも全部美空くんのせい、と。へえそうだったんですか」
「ふ、ぅ、ひいらぎぃ」
「泣いても許しませーん。それでも浮気を許可していた僕の責任ですからお休み期間は…」

 唇同士が触れそうな距離であなたがキスしたい、と言うまで。でしょうか




お腹が痛いんでしばらく彼氏、お休みします


title by:家出
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