どろどろ

朝チョコレートを買った。学校に着く頃にはそれは溶けていて、最早固形では無くなってい
た。楽しみにしていただけにショックである。

「あ。」

ショックでうつむきながら歩いていたらぶつかった。向こうも私に気付かなかったようで、かなり驚いている。

「ご、ごめんなさいッス!俺、余所見してて…
怪我とかしてないッスか!?」

なんとまあぶつかったのはあの黄瀬涼太だった。モデルの。
同じ高校にいて同じクラスの黄瀬とは挨拶程度にしか話したことがなかったから、こんなにたくさんの言葉を黄瀬が私に向けて紡いでいることに些か感動した。

「いや、大丈夫。黄瀬…くんこそ怪我ない?」

「大丈夫ッス!みょうじさん女の子なんだから身体は大事にするッスよ!!!」

余計なお世話だ、と思いながら、黄瀬が私の名前を知っていたことに驚いた。

「黄瀬…くん、私の名前知ってたんだね」

「そりゃ…!そりゃ知ってるッスよ!
同じクラスだしみょうじさん初めて見た時からずっと可愛いなって思ってて…話したいなって…
あっ…い、今のは忘れてほしいッス…」

黄瀬くんの顔が赤に染まっていくのをぼんやりと眺めていたら、なんだか私まで赤くなりそうで目を逸らした。

「それはつまりどういうこと?」

こんな風に聞く私は意地悪だろうか。
黄瀬は更に顔を赤くすると、涙目になりながら言葉を吐き出した。

「す、好きなんス…一目惚れってヤツで…!
その、あんまり話したことないからその、みょうじさんいつもこの時間に登校するって聞いて…少しでも話したくて…」

「それで急いで教室に向かってたと。」

コクリ、と涙目で頷く黄瀬はなんだか可愛かった。

「それで黄瀬はどうしたいの?」

「えっ…それは…
できることならみょうじさんと付き合いたいしみょうじさんのこと名前で呼びたいしみょうじさんのこと抱き締めたいしキスしたいし…って何言わせるんスかぁ!!!!!」

ああ、可愛い。可愛くて仕方ない。私はSの気でもあったのだろうか。

「いいよ、黄瀬。全部やってみる?」

「えっ…それって俺と付き合ってくれるってこと!?」

嬉しそうな黄瀬に返事の代わりに唇を塞いだ。

「あ…みょうじさん…」

「チョコレート、買ってきて。」

それと、名前。と耳元で囁けば、黄瀬は赤い顔を綻ばせて抱き着いてきた。

「なまえっち!なまえっち!好きッス!大好きッス!」

はいはい、と頭を撫でてやる私も、満更でも無いのかもしれない。
溶けたチョコレートは全部、黄瀬のせいにしてしまおうと思った。



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