見せておくれ



「ねぇ巻ちゃん」

「……………」

「巻ちゃん」

あぁ、やってしまった。

「ごめんね、巻ちゃん」

さっきから私を無視する男は巻島裕介、あだ名は巻ちゃん。
今はその巻ちゃんの家にお邪魔しているわけで。
ちなみに私は巻ちゃんの彼女で巻ちゃんは私の彼氏で、つまり私達は恋人同士であるわけなんだけど。

「その…興味本位で…うん…ごめん」

何故私が正座で巻ちゃんに謝っているのかというと。
巻ちゃんの部屋に入るのなんて初めてだったから、浮かれた私はついやってしまったのだ。

そう、エロ本探しを。

健全な男子高校生なら誰もが持っているといわれるそれを、一度見てみたかったのだ。本当にただの興味本位だった。

部屋の物勝手に漁ったら死刑ショ、なんて言われていたけど、巻ちゃんは優しいから結局許してくれるだろうと甘く考えていたわけだ。

巻ちゃんが飲み物を取りに行っている間にベッドの下を漁れば、大量のグラビア雑誌に紛れてエロ本も出てきた。巻ちゃんがグラビア好きなのは知っているので特になんとも思わないが、逆に気になるのはエロ本の方で。どんな内容なのか気になって仕方がなくなった私はついそれを開いてしまったのだ。

「爆…乳……ぶっかけ…………」

やはり常日頃からグラビアを見ているだけあって、普通のものじゃ満足できなくなったのだろうか、なんて失礼なことを考えながらぶつぶつとエロ本を読んでいた。

そこで飲み物を持った巻ちゃんが戻ってきて。固まる私達。
一拍置いて巻ちゃんは部屋から出て行ってしまって、それを私が追いかけて連れ戻して、今に至るわけである。

「巻ちゃん………」

「………引いたっショ」

やっと口を開いた巻ちゃんはすごくすごく悲しい顏をしていた。元々困り顔な巻ちゃんが悲しい顏をしているのは非常に申し訳ない気持ちになる。

「引いてないよ巻ちゃん」

「………でも」

「いや、エロ本は健全な男子高校生なら誰もが持っている物だと聞いたからね!それを聞いて探したのは私なんだし!そもそも人の部屋勝手に漁るとか最低だよね!本当にごめんなさい…」

巻ちゃんに悲しい顏をさせたかったわけじゃなくて。本当は、本当は、

「爆乳ではないけど、ぶ、ぶっかけくらいならしてくれていいから!ね!?巻ちゃんの好きにしていいんだよ!?」

「なまえ…死刑ショ…」

私以外の女の子に興奮してほしくない、なんて思っただけで。
そんなことは無理なんだって分かってるけど、小さな抵抗、ただのわがまま。

「俺だって、その…」

「…………?」

「色々、我慢、してんだヨ。なまえにはとてもさせられないようなコトとか…その…本で、見て。頭の中でなまえに置き換えてみたり、とか…」

真っ赤な顏で説明してくれる巻ちゃんは、今まで見た中で最高に可愛くて。
私までつられて真っ赤になった。
なんだ、巻ちゃん、ちゃんと私だけに興奮してくれてたんだ。

「なのに、お前…そういうコト言うから…」

「どういうことを…言ったっけ…」

「俺の好きにしていいとか…言うから…も、無理っショ…」

どさ。

背中痛いなぁ、なんて思っていたら巻ちゃんの顏がもう目の前で。その後ろには天井で。あ、これ、もしかして。

「煽ったのは、なまえなんだからな?」

「べ、別に煽ってない!!!…でも、巻ちゃんが私だけに興奮してくれるなら…まあ…いいかなって…」

「〜〜〜ッ!なまえ…可愛すぎっショ…」

巻ちゃんは嬉しそうに私に口付けを落とす。そう、そう、見たかったのは巻ちゃんのそんな顏なの。

「あ、愛してるっ…ショ」

真っ赤な顏してそんなこと言う巻ちゃんの方が可愛いよ、なんて、押し倒されながら思った。






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