性格破錠者はどこにでもいる ※D.Gray-manパロ ※ネオ帝国が教団、イノセンス等は作中にて ※ぶっちゃけD.G知らないとよく分からない話になってます。 『佐久間、そっちに何体いる?』 「……50から60ですかね、でもレベル1ばっかですよ」 『そうか。気を抜くなよ』 鬼道とゴーレムを通じて連絡しあいながら佐久間は近くの崩壊した建物の中に隠れる。 佐久間はアイパッチを外しながらゴーレムを通じて本部に連絡を取る。 『佐久間さん?』 「音無か。すまない、救援を要請する、誰かエクソシストを一人こっちに派遣できないか?」 『お兄ちゃんとの任務ですよね?確か源田さんと辺見さんが近い場所にいたはずです』 「わかった。連絡頼む」 鬼道もどこかの建物に隠れてると言っていた筈だ。佐久間は連絡を待つ為に荒い呼吸を整えた。 この街は既に佐久間たちが到着した時にはアクマによって崩壊していた。昼間という事もあったのかアクマは殆どおらず、すっかり油断しきっていた。 ───甘かった。 方舟の移動手段がない、辺境にあるここは汽車で来るしかない。駅のある街まで引き換えそうとした所に大量のアクマの群れが襲ってきたのだ。 その時は鬼道のイノセンスに助けられ、怪我はなかったものの、そこからはぐれ、やっと先程連絡が取れたほどだ。 隠すものがなくなった右目で窓から外を見ようとすれば、残ったガラスに写ったのは───。 (マズイ!!) 硝子を割り外へ出る。ゴーレムもアクマの銃撃でやられ使えなさそうだ。 チッ、と柄にもなく舌打ちしアクマにだけ神経を集中させた。 (イノセンス、発動!) 佐久間の体を蝕むように黒い蔦のようなものが団服の上から絡み付く。 右目、に寄生しているイノセンスの本体から伸びたそれはきつく佐久間を締め付ける。まるで、一生逃れられないというかのように。 アクマの銃先がこちらに向き、あと0.5秒で発射、そんな状態のままアクマは固まって動かなくなった。周りにいたアクマも同じ状態になり、佐久間は血のように赤く染まった瞳を向ける。 「じゃ、はじめようか」 大きくジャンプし、アクマを次々と踏み潰していく。佐久間にとってはただそこに着地し、次のアクマへ乗り移っているだけだ。が、実際はブーツに絡みついたイノセンスがアクマを破壊していっているのだ。 淡々とその作業を繰り返し、最後の一体となった時、佐久間に鋭い痛みを感じ、着地を失敗してしまう。 「…ぐ、あ」 ビキッ、と血管が浮くような感覚に襲われ、視界が霞む。 左目で目の前に降り立ったアクマを見れば、人の形をした、最も凶悪とされている、レベル4。 「あれれ?だいじょうぶですか?」 「…うるさい!」 なんとか立ち上がり鋭いパンチを見舞おうとするが、それを塞がれる。勿論手にもイノセンスは絡み付いている為、多少の影響は受ける筈、なのだが。 「よわいなあ」 「……口が減らないアクマだな」 「ほんとう、ちいさなむしみたいですね。ぼくはだーくまたーでつよくなれたんですから」 「黙れ!!」 感情が高ぶり、アクマの腹に一発キックをいれる。頭に血が昇る。 日頃から、自分に力がない事は分かっていた。レベル3でも満足に破壊できず、足手まといになるばかり。ましてやレベル4となんてとんでもない、そんな考えばかりが巡る。 でも、退くという考えは出てこなかった。 ──自分はエクソシストなのだから。 「はあっ!!」 そのまま格闘ゲームのようにパンチとキックを連発し、とにかくダメージを与えようと奮闘した。が、レベル4は佐久間で遊んでいるらしく、避けてばかりだ。 佐久間にもそれは読めていたのだ。いくらこんな、ショボいダメージばかりを与えていても、無駄な事も、相手が自分で遊んでいる事も。 (イノセンス、第二解放!!) 器用に右目だけを瞑り、左目で相手の場所を判断し、攻撃を加える。 まだ余裕のレベル4に内心ほくそ笑み、佐久間はイノセンスに指示を出した。 「────え?」 ぽつり、と呟かれたレベル4の言葉はすぐに途絶えた。 先程まで佐久間の体に巻き付いていた黒いイノセンスは、いつの間にか槍状になり、佐久間の体ごとアクマを貫き、壁に固定していた。 ゴフッ、と口から血を吐き出す。 「ばかですね、にんげんは。あくまとともだおれですか」 「何とでも言っとけ」 佐久間は笑い、そして、開いた右目でアクマの瞳を見つめる。 下から見上げられ、尚且つ固定までされている為、逃れられない。 右目に寄生しているイノセンス。ほとんど加工されていない力を直に浴び、レベル4は笑いながら砂になり消えていった。 それを視界の隅に確認した刹那、とてつもないぐらいの痛みが佐久間の体を襲った。 「ぐっ、ぐああああああああ!!!!」 叫ぶ事で痛みを紛らわそうにも痛みが勝り、佐久間はその場に倒れた。 震える手で眼帯を着け、誰かに抱き起こされる感覚を感じながら意識を手放した。 ───────── 「…くま、佐久間!」 呼ばれる声に答えようと、左目を開いた。 「佐久間!よかった、意識が戻ったんだな…」 ほっとしたような表情で源田が笑っていた。目線を動かせば丸椅子に座ったまま眠る鬼道と、心配そうにこちらを見ている音無が見えた。 「げんだ、きどーさん、おきるから、しずかに」 「あっ、ああ、すまないな」 まだ途切れ途切れにしか言葉を発する事が出来ない。 しかし気になることが沢山ある。それを察したかのように隣のベッドで待機していた女性エクソシストの小鳥遊がため息をついて言ってくれた。 「鬼道と源田と辺見が血相かえて運んできたのよ。鬼道の話によればアンタ、ゴーレム潰されて、道端に血まみれで倒れてたんだってね。アンタ何を破壊したの?その能力を使えばいずれは失明して、最悪死ぬ可能性もあるのよ」 「…わかってる」 「そりゃ死ぬ事を望むんだったらお好きにどうぞ。アタシは止めないわ。でもね、周りに残された人の事を考えてよね。今回はさすがのアタシでも心配したわよ佐久間」 いつも世話になっている彼女からの意をついた意見に、佐久間は目を伏せた。 普通なら死んでます、と音無が悲しそうに言うのも、源田が寂しげな表情でこちらを見るのも、わかっている。 「すまない。でも、あれは破壊しないとやられたんだ。オレも油断してた、まさかレベル4がいるなんて思わなかったんだ」 その言葉に周りが驚く。この間発見されたばかりの新種とされていたのに、普通の街中にも出現できるほど、数が増えているのか、と。 「…それでも、もっと自分の体を大切にしてくれないか、佐久間」 「鬼道さん…」 いつの間にか起きていた鬼道に真剣な目で言われ、何も言えなくなる。と同時に、彼には傷一つついてない事に気づいた。 「……」 この人は、どれだけ強くなっていくのだろう。 佐久間は寂しさを込めた笑みを鬼道に見せ、言った。 「それでもオレには、アクマを破壊することしか残ってませんから」 この右目のせいで迫害されてきた佐久間は初めてここで生きる意味を見つけた。 今の佐久間にはそれを失ってでも生きようなんて思わなかった。 「……佐久間さん、私たちの為に生きてみてくださいよ、」 耐えきれなくなった音無が、涙声で言った。 「わたしっ、さくまさんがいなくなるなんて……」 今、教団内では二つのグループに別れている。 旧教団派か新教団派か。鬼道も源田も音無も小鳥遊も新教団派に属す形になっているが、佐久間は教団を纏めあげる中央庁の手当てを受けている為、旧教団派にならざるを得なかった。 「…どうして?何故?旧教団派なんていなくなった方がいいだろ?」 「そんなこと断じてありません!!もう、下らないことで争うのは嫌なんです」 涙を流しながら、本気で佐久間と掛け合う音無に佐久間はいつの間にか目尻から綺麗に光る涙をシーツに垂らしていた。 「オレだって、新教団派の考えに、賛成だけど、オレには力がないから、誰にも追い付けないから、よわいから…っ」 もうそれ以上言葉なんて出なかった。 本当は素直になりたくて、それでもあえて素直にならずに人との壁を作って中央の脅威から守っていた佐久間を、皆解っていた。理解していたのだ。 ガタン、鬼道が座っていた丸椅子が音を立てた。 「鬼道、さん…?」 「中央に話をつけてくる」 それにはその場にいた全員が驚いた。 「やめて鬼道さん!今あいつらが何をしでかすかなんて」 「仲間が傷ついているのに、何も出来ないなんて事はもう嫌なんだ!」 鬼道は佐久間の手を取り、消えるように呟いた。 「お前が血塗れで倒れてた時、俺がどれだけ己の無力さを悔いた。そして、俺は気づいたんだ。いつもお前に守られていると。だから今度は、俺が、お前を、守る」 佐久間は泣いた。声を上げて、赤子のように泣いた。 笑いながら、泣いた。 ありがとうと言いながら、佐久間は泣いていた。 「…行ってくる」 マントをはためかせ立ち去る鬼道に、佐久間はいってらっしゃい、と言の葉を紡いだ。 そしていつの間にか頭に置かれ、撫でてくれていた源田のゴツゴツとした手をそっとどかした。 「…鬼道さんは、やっぱり強いよ。まさか中央に歯向かうなんて」 「誰かを守りたい、その気持ちが大切なんじゃないか?」 「ふふっ、そうかもな」 教団に拾われた頃からエクソシストとしての最低限の事を叩き込まれ、生きてきた。 それは全ての人間を守る為に戦い、犠牲は必ずつくものという事であり、たった一人の、それも敵も同然である人間のために、自分が傷つくのも恐れない彼らの考え。 ひょっとしたら、それに一番憧れていたのかもしれない。 沢山ある強さの中で、一番、憧れていた強さ。 「ありがとう」 佐久間は変わっていく教団が、どうかいい方向に向かい、そして鬼道が無事に帰ってくる事を祈った。 性格破錠者はどこにでもいる end 異世界さまへ。 ありがとうございました。 |